誰かを本気で想う事など 今の俺にはできない・・・ そう 思っていた・・・ < serenade > 「 ご苦労だったな ホークアイ中尉 」 ロイは目的地である その部屋の前にいる副官・リザ・ホークアイに声をかけた リザは椅子から立ち上がり 敬礼で上官に応えた ・・・が。 「 ・・・大佐 書類の方にはきちんと目を通して頂けましたか? 」 「 勿論 今日の分は仕上げてきたよ 」 副官の厳しいチェックに苦笑しながら ロイは平然と < 嘘 > を云ってのけた 今日中に仕上げなければいけない書類の半分も目を通していないというのに・・・。 リザはそれを知ってか知らずか・・・ 小さく溜息をついて彼の目的地の部屋であるドアをノックした 「 トキヨちゃん 大佐がいらしたわ 」 「 ・・・ 」 しかし 部屋からの応答はない 不思議に思ったロイは構わずドアを開け そこにいるべき人物を呼ぶ 「 トキヨ帰るぞ 早く支度を―――・・・ 」 彼は部屋に入るなり いきなり言葉を切った 同じく 上官の後に入ってきたリザも応答のなかった理由を理解した 部屋の中央にあるソファーで ソレが小さく寝息を立てていたからだ 彼女はトキヨというある日突然現れた少女 現在はロイが家で保護している 「 ぐっすりですね 」 「 遅くまで起きているからだ まったく・・・ 」 リザは穏やかな寝顔のトキヨに頬を緩ませる 対してロイは呆れた様子で溜息を混じらせ 悪態をつく まるで父親の様な云い方をする上官に 「 起こしますか? 」 と微笑を含み問いかけるリザ 「 ・・・いや 」 ロイは副官を制止させると 少女の元へ静かに歩み寄り そっと優しく抱きかかえた そして・・・ 「 これ位なら苦にはならん 」 ************************************ ・・・・・・ガタン 「 ・・・ぅん・・・ 」 車の振動でトキヨが目を覚ましたらしい 「 ・・・起きたか? 」 「 ・・・ん〜・・・・・・・・・・・? 」 ・・・が どうやら まだ寝足りないらしい。 < 心地の良い温もり > も手伝い 再び瞳を閉じ 軽く身を捩じらせ < 少し硬い枕 > に頬を寄せた ・・・だが。 徐々に意識がはっきりしていくにつれ トキヨは < 違和感 > を察知し――― 勢いよく飛び起きた 「 ・・・・・〜〜〜〜!!大佐っ?!!///// 」 そう 枕だと思っていたソレはロイ・マスタングの膝そのもの しかも ご丁寧に彼のコートまでかけられていた 目を白黒させるトキヨに運転席から救いの声が聞こえた 「 おはよう トキヨちゃんよく寝ていたわね 」 「 リザさん 」 「 部屋で寝てしまっていたのよ 」 彼女の声に 少し落ち着きを取り戻すことができたが・・・ 「 ・・・起こしてくれれば良かったのに 」 「 大佐のご意向よ 」 と パニックの元である人物の名を耳にし また頬がポッと熱くなるのを感じた 横目で隣にいるロイをちらりと見ると 黙ってコートを直している ( ・・・やっぱ女だからか? ) 彼 ロイ・マスタングの良い所の一つは優しい事 特に女性に対しては・・・というのは当たり前なので驚く事ではない 「 ・・・・・・アリガト/// 」 つい、と目をそらし 本人に聞こえない様に囁きほどの小声で云ったのだが どうたら地獄耳の持ち主らしく ふ、と鼻で笑う様な笑みを浮かべて こちらを見て いる ( 〜〜〜〜ンのやろ〜・・・/// ) ・・・こういう時 あの有名な鋼の錬金術師ならば ものすごい形相とオーラで直ぐ様にでも噛み付くであろう・・・。 彼の様に直球で反発できない自分が歯痒く思う・・・ ************************************ 不満を抱えつつも家へと着き 早く中へ入る様に家主にせかされた ハーイ、と開けられたドアを抜け 小走りでキッチンへと向かうトキヨ 帰宅したらお湯を沸かし コーヒーを淹れる これが ロイがトキヨに与えた、家での仕事の一つ 一方 ロイはリビングにあるソファーに ふう、と息をついて腰掛けた 適度に広さのあるマスタング邸は その分冷気に満ちており ソファーも然り・・・ ロイは軽く眉をひそめ ソファーに預けていた背を離した すると トキヨがキッチンから出てきた 「 ・・・あのさ、 重かったろ・・・ 」 少しバツの悪そうな顔をしているのは 先程のことを気にしてのことだろう 「 いや 左程 気にはならなかったが 」 ( ・・・左程かよ!(怒) ) しれっとした態度の割りに子供じみた事をするロイ 確かに斜めに出る自分にも原因があるが・・・ 29歳の男がする事ではないだろう!と こめかみに青筋をたてるトキヨ 「 悪いとか思ってるのか? 」 「 ・・・そりゃーね。自分の事は自分がよ〜く知ってるかんね! 」 余裕な笑みのロイに悪態をつきたくなるのをトキヨは何とか抑える フン!と、いかにも ふて腐れている姿がどこか愛らしく映り ロイは思わず クス、と笑った それが気に障ったらしく トキヨはロイをじと〜、と睨む 「 あ〜分かった分かった 等価交換と云いたいのだろう? 」 流石に怒ると察したロイは彼女の結論を持ち出し 宥めた それに対し トキヨは黙って首を縦に振った 「 ふう・・・では唄いたまえ 」 「 ・・・・はあ?! 」 いきなり何を云い出すんだと思い切り疑問符をぶつけるトキヨ 「 聞こえなかったか?私への代価として歌を唄えと云ったんだ 」 「 聞こえたけど何でそんな下らない事・・・ 」 「 中尉が褒めていたぞ あまり聴かない歌だが美しいソプラノだったと 」 ( ・・・あの時か・・・///;; ) そう トキヨはロイを待つ間 部屋からは出ない様に云われている その為 本を読んだり軽いストレッチをしたりと、いつも暇を持て余している その際に鼻唄程度によく歌を唄ってはいるのだが・・・今日に限っては違った 軍の演習場から聞こえるけたたましい軍人達の熱意に トキヨの三半規管が悲鳴を上げたのだ トキヨは己の中のリズムを安定させるべく・・・ 簡単に云えば気晴らしに適当に歌を口ずさんでいたのだった 大声を出していた訳ではないが 入り口付近で唄っていた為 リザには筒抜けだったらしい 「 さあ 早く唄いたまえ 」 黙っているトキヨにロイは再度 念を押した 「 ・・・下手だからな 」 「 それは私が決める 」 こんな事で等価交換になるのかとトキヨは眉をひそめるも 家主の命に渋々と息を整え ス、と目を閉じ唄い始めた シン、とした空間に歌という物語の詩が綴られていく 時に切なく 時に優しく 高く 低く 柔らかな旋律が奏でられる まるで恋人に捧ぐ セレナーデの様に・・・ 唄い終えたトキヨがゆっくりと目を開くと ロイがこちらをじっと見つめている ( ・・・?・・・何?;; ) 気に入らなかったのかと内心焦っていると ロイは静かに立ち上がり トキヨの元へと歩み寄る その際にも彼の瞳は確実に彼女を捕らえている その視線の意味が分からず目を伏せてしまうトキヨ すると ふいにロイの大きな手がトキヨの頬を包んだ 「 ・・・ッ た、大佐・・・?/// 」 「 ・・・ 」 沈黙を守り続ける漆黒の瞳に頬が紅潮していくのが分かる どうしてか・・・ ただ見つめられているだけなのに動けない 今までになく自分に接してくるロイに少しずつ高鳴りを増す鼓動 彼の温もりがもどかしくて 切なくて・・・ 伝えてしまいそうになる 自分の本当の気持ちを・・・ 『 誰よりも貴方を愛しく想う 』 と―――・・・ ―――その刹那 ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ 「 ! 」 「 あっ!やべっ!!;; 」 火にかけていたポットが突然鳴り出した それを機にトキヨは呪縛から解放され キッチンへと走った ロイはその姿を見送ると ふ、と小さく自嘲した ( あの状況で言葉に迷うとは 俺らしくもない・・・ ) 普段から見ているトキヨの印象は 少々おてんばで男勝りの口の悪さ しかし年頃の娘には変わりない 時折見せる微笑みや仕草に胸が燻られる事もあったが 今日 ロイはトキヨに間違いなく見惚れていた 一人の大人の女性として見ていた 「 ・・・そろそろ指のサイズでもチェックしておくかな・・・? 」 君の心を開く 魔法の呪文と共に・・・ E N D ************************************ あとがき ども☆お世話になってる香西です^^ いきなりですが 私ここに通って随分経ちます 確かその頃は鋼一色だったことを覚えています ・・・なのにですよ? 今まで自分は鋼のSSをひとつも書いていなかったんです。(ええ本当に) あとからハマったナルトはチビチビ書いているというのに これが初のロイトキSSです・・・ 非常に時間がかかりすぎだ;; ひたすらお相手のロイ・マスタング氏に謝りたい・・・;;; ・・・そんな思いを残しつつ そろそそ去ります こんな中途な書き物を良い子な皆さんは 見てはいけませんよ?(苦笑) では。 |