『 事実は小説より奇なり 』

それは どうやら本当らしい…



 < ナヤメルヒト >






 ( さて。これからどうするかな… )


もぞもぞ、と着替えをしながらトキヨは思案していた


とりあえずは今現在 自分がはまっている漫画
〔 鋼の錬金術師 〕の世界に居るという事は認識できた

いわゆる異世界トリップという奴だろう…

未知の惑星に投げ出された様な気もするが… 
この世界に対する知識はそれなりにあり 言葉も通じる
それに何より< 最愛の人 >に一番に出逢えた事を考慮すれば
地獄に仏といった感じがするトキヨであった


………が。


 ( ロイに逢えたぁ!vv…な〜んて舞い上がってたけど
   なかなかどーして辛いぞぉ〜…自分!!;; )


この先の事を考えると気がとてつもなく重くなっていくのであった




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 ( 逢った憶えはないんだがな… )



一方 自分の執務室の前で考え込んでいるのは彼女の拾い主(?)であり
この東方司令部の指揮官ロイ・マスタング


突如として現れたずぶ濡れの見知らぬ怪しい人物に
初対面でいきなり名前を当てられれば誰でも驚きはするだろう。

ロイは仕事柄 顔の憶えはそれなりにいい 
ましてや得意分野の女性となれば尚の事である。



 「 トキヨという名にも心当たりはないしなあ… 」


ふむ、と顎に親指をあて 思考を巡らせていると


 「 大佐 」

 「 中尉 戻ったか 」

 「 はい ハボック少尉からこれを預かってきました 」

 「 ああ ありがとう 」

手渡されたのは先程ハボックに頼んだ
少女の為の暖かい飲み物と…

 「 それと こちらをお忘れです 」

 「 …ああ 」


厚みを帯びた書類の束


「それから」とまだ言葉が続くことに
心なしか眉をひそめ それらを受け取るロイ


 「 少尉から聞きましたが女性をお連れになったとか… 」


あの少尉の事だ 冗談半分に事を伝えたのだろう
彼女もそれを本気にしているわけではないが
揺るぎのないその眼光には何処か棘がある


 「 視察の帰りに公園で少女を保護したんだ 勘違いするな 」

 「 …そうですか 」

 「 何だ その間は。……しかし… 」

 「 ? 何か…? 」

何処となく汲み取れない表情をする上官を気にかけるが
「…いや」と、ロイは話を伏せた


そこに、



 「 あのぉ… 」



ドアの開閉音と共に顔を覗かせたのは話題の少女・トキヨ


 「 終わったかい? 」

 「 あ、…はい… 」

邪魔をしたかと思い、二人の顔色を小さくなりながら
窺っている少女にリザは軽く会釈をした
トキヨも会釈で返すとリザは背中を向け 静かに立ち去った

それを見送ると両手の塞がっているロイの為にドアを開ける

 「 ああ、すまない 」

 「 いいえ 」

 「 遠慮せずに好きに掛けたまえ 」  

促されるままにソファーへと腰かけ「熱いよ」と
差し出されたカップを両手でそ、と受け取る

 「 コーヒーだが 良かったかね? 」

 「 はい 頂きます 」

書類をテーブルに置き 向かいのソファーに腰を下ろしたロイは
些か楽しげに少女を見つめていた

 「 手頃な物がなくて すまないね 」

 「 ? 」

 「 私ので恐縮だが とりあえず乾くまで辛抱してくれ 」

 「 あ、はい…/// 」


その訳はトキヨの容姿。

即席でロイのワイシャツと軍服のズボンを袖を捲くって
着ているのだが…トキヨはサイズが標準よりも小さい為か…
どうにも着ているというより着られている。

…だが 憧れの彼と二人きりで彼のものに包まれている…
そんな嬉しさでロイの視線などお構いなしに頬を緩ませるトキヨであった


 
 「 …トキヨと云ったね 落ちついたら家まで送ろう 」

 ( っ?!;; 遂に来たか…地獄の一丁目…(涙) )

 「 あ…あのぉ、その事なんですけど…;;; 」


と、云い難そうに切り出した途端―――


 

 「 よお〜ロイ!ひっさしぶりだな!またナンパしたんだって☆? 」



ノックもなしに開け放たれたドアからは彼の親友
中央に居るはずのマース・ヒューズ中佐が突如乱入してきた


その予期せぬ来客と言葉にロイは冷たい視線を送る

 
 「 …ヒューズ 入室時にはノックをしたらどうだ? 」
 
 「 お前さんを驚かせようと思ってなあ☆ 」

 「 仮にも接客中だ すまない驚かせてしまったな 」

 「 いいえ…; ( …タイミング最悪…(怒) ) 」

悪びれもない友人の非礼をカバーするロイの心中を察して
怒れる心を押さえ トキヨはただ愛想で返すしか出来なかった

 「 こんな可愛い子ナンパして接客とはよく云うな〜 」

 「 ハボックといい…貴様らの思考回路はそれしかないのか? 」

 「 悪かったな〜驚かして。俺はこいつの知り合いでマース・ヒューズだ 」

 「 あ、どうも 」


 「 ……おい 」

ロイの話を無視してトキヨへ挨拶の握手をするヒューズ
ちゃっかりとトキヨもそれに応えているのだから彼としては困ったもの

そんな哀れなロイにあはは、と苦笑いで誤魔化すトキヨであった
 

 「 …で?一体何をしに来た? 」 


言い知れぬ怒りをため息と共に流し ロイは気を取り直して
来訪の目的を問うた

 「 将軍のお供さ 今お前ンとこのじーさんと話してる 」

 「 成る程な 」

 「 あ、あの…大事なお話とかあるんなら出てますけど… 」

トキヨは気を利かせ ソファーから腰を浮かせたが
いやいや、と すかさずヒューズが肩に手を置き 座り直させる

 「 あ〜全然そんなことない。俺はただこいつの顔見に来ただけ 」

 「 ならば出て行け。 」

 「 つれねーな〜 」

 「 暇を持て余すなら他を当たれ 私はこれからコレを仕上げなきゃならん 
   それに彼女の話もまだ途中だ 」

先程リザから渡された書類を顎で示唆し トキヨへと視線を上げたロイ


 「 あ、…、… 」

トキヨはかち合った視線を咄嗟に外し 縮こまってしまった
その様子にヒューズは「ん?」と、首を傾げる

 
 ( なーんつったらいいかな?;; )


トキヨとしては先程の流れで「ちょっと困ってるんです」程度に
話を切り出したかったのだが そのタイミングを見事に外され 
決めかねていた覚悟を揺るがせた


その覚悟とは身の置き場

いくら多少の知識はあっても ここには独りぼっちで
無論 自分たちの世界に戻れる保証などない
だから ここに居る間の衣食住を何とかしなければいけないのだが…




 「 トキヨ? 」

 「 具合でも悪いのか? 」

俯いて黙っているトキヨに二人は少し不安げな視線を向ける
そんな彼らにトキヨはついに意を決して

 ( でも このままでも行くあてないし 野宿なんてまっぴら!! )


 「 あ、あの!実は…私行く所がなくて…その…… 」


必死にその先の言葉を見つけようと奮闘していると
その横からヒューズが何処か気を緩めた様子で笑いながら少女の頭を撫でた
 
 「 なんだ家出か?親御さんきっと心配してるぞ? 」

茶化す様な彼にムッ、として立ち上がり様 トキヨはその手を強引に払った

 「 違います!!そんなんじゃありません! 」

 「 おっと、こりゃ失礼 」

 「 …ッ… 」


 ( ……どうやら何かありそうだな )

その真剣な様子にロイは何かを察した そして…


 「 …とりあえず落ち着きたまえ 話のワケを聞こう 」


ヒューズに鋭い眼差しを送る少女をロイはそっと言葉で制する

「トキヨ」と柔らかな声音で名を呼ばれ 彼女は已む無く掛けた
そして俯きながらポツリ、とヒューズに 
 

 「 ……ゴメンナサイ… 」


そう告げるとヒューズは静かに隣へ腰を落とし 
柔和な笑みを浮かべ トキヨの髪を優しく梳いた


 「 さて 話に戻るがどうして行く所がない、と? 」

 「 あ、はい…それは…何ていうか…… 」

頃合を見計らい ロイが話を振ってきた
トキヨは真実を話してよいものか、と最初 言葉を濁し
慎重に脳内で己が言葉を選ぶ 


そして考えた抜いた結果―――


 
 「 …実はその、自分でも分らないんです…
   何があってどうしてここに居るのか、全く… 」



その言葉に彼らの表情が先程までと変わり
<軍人>の顔となった

 「 トキヨ ファミリーネームは云えるかい? 」

 「 あの、………えっと………ッ… 」

 「 … 」


必死に何かを思い出そうと苦悩の表情を浮かべる少女に
ヒューズは見かねて優しく声を掛けた

 「 無理はしなくていいからな 」

 「 …はい…御免なさい、分らないです… 」

 「 そうか じゃあ… 」


と、いってロイは幾つかの質問をトキヨにした
対して応えるトキヨは時折 苦しそうに眼を瞑り 記憶の中を
手探りする様な仕草を見せながらゆっくりと確かに返答する



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そして数分後 質問を終えたロイはふむ、と顎に手をあてがい
なにやら頭の中を整理しだした


一方 ヒューズの「お疲れさん」という労いの言葉を受け
ほ、とした様に微笑むトキヨだったが…


 ( …お願いです。どうか嘘発見器とかにはかけないで!; )


…と、内心かな〜りビビリまくっていた。

流石に「異世界の人間です」などと正直に云える筈もなく
なんとか<記憶喪失の哀れな少女>を演じる事にしたのだが
彼の出題には法律などもあり もしもそれで他国の人間だと
知れた場合はパスポートの提示が求められる

だが あるとしても生徒手帳くらいで役に立つ代物ではない…

よって 最悪の事態は…
不法入国者として逮捕され 留置場に直行。


 ( そんなの嫌!!ブタ小屋なんてマジで嫌!!やっと逢えた愛しい人に
   無実の罪で捕まるなんて、前科持ちになんかなりたな〜い!!(泣) )


内なるトキヨの奇声は止む所を知らず まるで雪崩の様…。




そんな時

コンコン、と小気味良い音に三人が振り向く


 「 入れ 」

 「 失礼します 」


そうして現れたのは先程見かけたリザであった

丸いトレーに湯気が立ったカップ三つを乗せ 悠然とそれらを運ぶ
カチャリ、と小さく音を立てながらテーブルへと置かれ
それぞれが「ありがとう」と礼をする中 リザはトキヨの前に置いてあった
飲みかけのカップをトレーに移した

 
 「 すっかり冷めてしまってるわね ごめんなさい 」

 「 あ、すみません 」

はにかみながらリザの優しさに感謝していると
ヒューズがいきなり口を開いた

 「 中尉 ちょっと頼みあるんだが 」

 「 はい 何でしょう? 」

 「 !?;; 」

平静を装い 彼女の淹れた紅茶を啜るトキヨだが 
内心ハラハラしながら耳はしっかりとそちらへ集中させる

 「 悪いがこの子を軍医の所へやってくんねーか?
   どこか怪我がないか見てやってほしいんだ 」

 「 分りました 」

 「 え?でも怪我なんて… 」

 「 そうだな 一度診て貰いなさい 」

 「 ほーら 行った行った☆ 」

 「 あっ ちょっと…!;; 」

 「 じゃあ行きましょうか お嬢さん? 」

 「 ……はい/// 」

半強制的に背中を押され 戸惑ったトキヨだが
お嬢さんと云われ 少し照れながらついていく


 ( …大丈夫だよね?あんま疑われてる様な感じじゃなかったし )


リザの背中を追いながら ふと、事を良い方向へと考え出したトキヨ
どうやら先程の不安はヒューズのあしらいによって軽減された様だ

だが、まだ完全に安心し切れていないというのが
辛い現状でもあるが…








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あとがき



ども☆月夜です
やっとこハガレン扉の第二弾です

最初のはトキヨ視点でぱー、と書いちゃったもんだから
この次どないしようと、かなり焦りました;;
結果ずいぶん長くて中途な終わりになったと…才能ないね〜全く。

ま、とにかく一度書いてしまったんだから
終わりまでやるしかないでしょうね^^;;
早く光稀様に追いつかねば!!