この< 予感 >はなんだろう
< interest >
「 お前 あの娘をどう思う? 」
二人が去った後も
ロイとヒューズは例の少女について話をしていた
「 さあな 素人じゃ分らんさ 」
「 記憶がどうこうじゃない もっと根本的な事だ 」
「 何か思い当たる事でもあるのか? 」
ソファーで寛ぐヒューズに対してロイは事務処理をするべく
革張りの椅子に身を預け パラパラと書類に眼を通す
だが…
「 …こっちが聞きたい位だ 」
まるで上の空
その原因は勿論 あの少女だ
先の質問で不明瞭な応答が多かった為 身元を調べる事は困難
それに加え 法に関しても曖昧な返答があった事から
アメストリス国外の者の可能性も否定できない
軍人として早々に詳しく取調べをするのが妥当である
「 …暫く様子を見るか… 」
「 お?お前さんにしては珍しいなぁ 気に入ったのか? 」
「 馬鹿を云え 相手は子供だ 」
思わせ振りに笑うヒューズをロイは軽く一蹴する
そんないつもの彼らしくなってきたところで
「 ま 何にせよ トキヨの身の振り方は考えにゃならんだろ? 」
思い話も早々に少女の引き取り先の話を持ち出すヒューズ
やはり娘を持つ父親としての思いもあるのだろう
ロイとしても彼のそういう所には敵わないと思っている
そんな友人に感心しつつ ロイは椅子を立ち ハンガーに掛けられた
トキヨの制服を持ち出し デスクの上に置いた
「 その事なら心配ない すでに決めてる 」
「 ま。どうせホークアイ中尉殿にでも任せるんだろう? 」
と、笑うヒューズの言葉にロイは不敵に口の端を持ち上げた
「 ……いや? 」
**************************************
「 有難うございました 」
ぺこりと軍医に会釈をして医務室を後のする
「 良かったわね 大した怪我もなくて 」
「 はい もぉ…だから大丈夫だって云ったのに。 」
不服そうに口を尖らせるトキヨにリザはクスリ、と微笑した
「 ああ見えて心配性なのよ 優しいからあの人たちは 」
「 それは分ります! 勿論リザさんもハボックさんもいい人ですよ☆ 」
「 ありがとう トキヨちゃん 」
と、お互いに笑みを交わしながら並んで歩く
この少しの間でリザと打ち解けたらしくトキヨは楽しそうである
元来 トキヨは人見知りで微笑む事も自ら口を開くことすらありえない
だが よく知る彼らだからか、素直に喜怒哀楽を見せる
そんな屈託のない笑顔を向ける少女にリザも仄かに頬を緩ませるのであった
大きすぎる服に身を包み 実際より幼く見えるというのもあるかも知れないが。
そうこうしている内に執務室の前までたどり着く二人
リザのノックの後に彼の返事が聞こえ ドアノブを回す
「 大佐 只今戻りました 」
「 ご苦労 」
「 お、戻ったな 」
少女の姿を見つけるとヒューズはひらひら、と手招く
トキヨは疑いもなく 素直にそれに応じると…
「 よーお疲れさん☆何ともなかったかぁ? 」
「 は、はぁ…;; 」
彼 持ち前の明るさでまたもや ぽむぽむ、と頭を撫でられる。
トキヨとしては18の威厳を守るべく そろそろ文句を云おうと思った時
ふいにヒューズの表情がとても柔和なものになった
「 良かったな 」
「 ? 」
「 ロイがお前さんの世話役を買うそうだ 」
「 ……え…? 」
その言葉が信じられなくて思わず 奥に居るロイを見やるトキヨ
彼はいつもの笑みを口元に浮かべ
「 私と二人暮しになるが…それでも構わないなら、な? 」
そんなロイの言葉にトキヨは勿論
「 …〜〜っはい!不束者ですが、お世話になります!! 」
元気のいい返事と共に腰を90度に折る
あんまりの嬉しさに飛び跳ねて喜びたい!というのがトキヨの本心だが
そこを何とか抑えて心の中で密かにガッツポーズを決める
( やったぁ〜! ロイと二人暮しぃ!!vv )
やんや☆やんや★と浮かれているトキヨ
その死角で話の流れが読めないリザがロイにそっと打ち明ける
「 大佐 今の話はどういう事ですか? 」
「 色々と事情があってな…詳しい話は後だ
トキヨ 中尉と一緒に必要な物を揃えてきなさい
手荷物はそれだけなのだろう? 」
と、紺のスクールバッグを示唆するロイ
「 え…?はい…。でも、これからですか? 」
「 勿論だ 此処もなかなか広い土地でね 買い物は早い方がいい 」
「物がいいから目移りしてしまうぞ?」とからかってくるロイに
トキヨはあはは、と苦く笑う
「 そう…ですか…。でも、あの…先立つ物がその〜…;; 」
この国の通貨はセンズ 無論 円では全く意味を持たないトキヨの財布
これで今までの積み立ても台無しか、と思われたが
それを聞いたヒューズは思わず吹き出した
「 あっははは! 何だそんな事か!? 」
「 そ、そんな事って!だって!;;/// 」
「 ははは、私もそこまで心は狭くはないよ? 行っておいで 」
果てはロイにまで笑われて恥かしい事この上ないトキヨであった
「 …〜〜/// …でも服 乾いてないでしょ? 」
「 ん?こいつのことか? 」
と、ヒューズがソファーの背に掛けられていた制服をトキヨへと差し出す
受け取ってみるとそれは見事に乾いていた
「 へ? …嘘。 」
「 錬金術の分解だ コレ位ならわけない 」
( ! あー成程。焔だけじゃなかったんだ へえー☆(笑) )
「 雨の日は苦手のくせになぁ〜。 」
「 …ヒューズ(怒) 」
イタイ所を突かれて黒いオーラが彼から滲むのを内心呆れて眺めるトキヨ
そこに
「 失礼します 中佐 将軍がお呼びですよ…と? 」
伝令役を仰せ付かったハボックが顔を覗かせた
上官の他愛のない争いの雰囲気を感知し またか、といった風な顔をするも
トキヨの姿を見つけ 挨拶程度に笑いかける トキヨも同じくにこり、と返した
「 お? そーか、そーか! 」
呼ばれたヒューズは友人の威圧などのものともせず よっこら、と腰を上げて
「じゃーな」の一言でさっさと戦線を離脱した
ガチャリ、とドアが閉まるとロイは清々したと云わんばかりに
大きなため息と共に冷めた紅茶を啜った
「 全く…嵐だな、あの男は。 」
( はは 云えてる(笑) )
「 では大佐 私達も出てきますから 」
「 ああ 頼む 」
「 書類の方 今日中にお願いしますね 」
「 …車をまわしておく。 」
ほっと一息つけたのも束の間 有能な副官に釘を刺され 苦い顔で受話器を取る
そんなロイに苦笑しつつ トキヨは着替えを携えてリザへついて行く
それを端から見送ったハボックは丁度 電話を終えた上官に
小さな来客の行き先を尋ねた
「 あの子 中尉と何処いったんすか? 」
「 生活必需品の買い出しだ 」
「 は? 」
「 行く所がないというから私の元で寝泊りさせる それだけだ 」
「 ちょ、ちょっと待ってください!何すかソレ!?;; 」
いまいち事を飲み込めない部下にロイは一通り説明をする
**************************************
「 そうね トキヨちゃんならオブシディア通りのお店かしら 」
着替えを終えて軍施設の出入り口へと足を進めるリザとトキヨの両名
早速 リザは少女に合いそうな店の検討を始めた
「 どんな感じのお店があるんですか? 」
「 レディースとヤングアダルトの服が多いわ 派手なものもあるし
逆に落ち着いたものもあるわ…まあ様々ね 」
「 うう〜本当に目移りしそうだなぁ…;; 」
今から悩み始めたトキヨにリザはクスリ、と笑う
う〜ん、と悩んだかと思えば ぱっと顔を上げてリザに向き直る
「 そーだ!リザさんが見立ててくれませんか? 」
「 ええ いいわよ だけど、あまり期待しないでね? 」
「 そんな事ないですよ リザさんのセンス好きですよ☆
……だってほら!ピアスとかシンプルだけどお洒落だし!!;; 」
謙遜する彼女をヨイショしようとしたトキヨだが…思わず早口で言葉を濁す
( やっべー…;;危うく滑らす所だった…!;; )
初対面のはずの自分が何故に彼女の私服のセンスを語れるのだ!!(汗)
今ので怪しまれやしまいかと、背中に嫌な冷たい雫がつたうのを
おもいっきりの笑みを浮かべて誤魔化すトキヨ
その結果―――
「 ふふ ありがとう そう云って貰えると嬉しいわ 」
「 いーえー☆ 」
( セーフッ!!!;; )
…どうやら大丈夫だったらしい。
調子に乗るのは禁物だと改めて肝に銘じたトキヨであった…。
**************************************
一方 こちら執務室では…
「 …また とんでもない子を拾ってきましたね。 」
上官の説明を受けても半信半疑なのであろう。
伏し目がちに後頭部をさするハボック
とはいえ、一人の少女の身を保護するのが最優先であると考え
引き取ることはひとまず納得したようだった
「 とにかく情報が少ない 事件も考慮してあの娘の身元を調べろ 」
「 了解 …でも、大佐どうしてホークアイ中尉に預けないんすか?
中尉とだったら女同士だし 割と落ち着けるかもしれないでしょ? 」
誰もが考える単純な疑問である
自分が拾ってきた面倒事を部下に押し付けるワケには…
などと考えるような柄ではない事は当の昔に分っている。
そんな彼がわざわざ自分でお目付け役を買うとは
どういった心境の変化なのだろう…?
そう考えている間にも黙々と事務処理を行う上官に少し疑問を抱くハボック
何か云いたげな彼にロイはじろり、と睨みをきかせる
「 …先に云っておくがヤマシイ理由じゃないぞ? 」
「 もしそうなら中尉に密告してますよ 」
れっきとした返答を求めるハボックにロイは小さく息をつき ペンを置いた
そして顔の前で掌を組み合わせ 物思いにその眼を閉じる
「 ……あの娘には何かある そんな気がしてならん 」
真剣な声音にハボックも面持ちを神妙なものに変わる
「 悪い意味じゃあ、ないっすよね? 」
「 さあな… 」
そういってロイは沈黙した
閉じられたままのその眼に映るのは
自分を見つめるあの少女の真っ直ぐな眼
( 君はその眼に 一体 何を宿している…? )
言葉では表せない様なとても深い光彩を秘めた瞳
ふと ロイはゆっくりと瞼を上げる
そして 曖昧な色をその眼に滲ませながら
気取られぬ様にそっと口元を綻ばせた
( …久々に面白い拾い物をしたな )
**************************************
あとがき
どうも☆お馴染月夜です
ようやくロイの心理的な話へと持ち込むことが出来たんで
月夜的にはとりあえず満足でーす☆(笑)
つーか、ロイの魅力である不敵さが滲んできてほっと一安心。(お)
さ〜て、まだまだがんばんぞぉ!!