知っているけど ハジメマシテ < ハジメの一歩 > 「 本当に広いね 迷子になりそう 」 「 その心配はないさ 君の場合はね 」 「 …そーですね 」 朝の元気が少し薄れた様子のトキヨ 今日トキヨが再び司令部へ足を運んだのは此処で一日の殆どを過ごすから つまり 此処が昼間のベースとなるのだ その訳は彼女独りきりで家に残すのは気がかりだ、との事だ 此処の統治者である将軍の計らいもあり 施設の使用を許可された その事に対しては一日を通してロイと一緒に居られるのであるからして トキヨ自身 不満などはない むしろ安心している なのだが… コツコツ、と二人分の足音を響かせながら長く広い廊下を進む 「 さあ ここだ 」 そういって案内されたのは程よい広さの個室 部屋の中央には彼のオフィスの様に向かい合わせのソファーとテーブル 壁には腰の高さまでの本棚が備え付けてある 「 ふーん…綺麗なところだね 」 「 元は応接室だが今は使っていない 」 「 へえ〜勿体無い 」 「 何か要りようなら外にいる者にいいなさい 」 「 はーい 」 「 大人しく待っているんだぞ いいな? 」 「 アイ・サー 」 パタン、と静かに閉じられたドアを少し淋しげに見つめるトキヨ それが空しくてソファーへとその身を預けた ぼんやりと窓硝子越しの景色に視線を向け 小さく息を吐いた 「 …そーゆーアンタも仕事しろっての、ばーか… 」 ************************************** 「 お早う御座います 大佐 」 執務室のドアを開けると副官の挨拶が向けられる いつもの様に自分も「ああ」と素っ気無く返す 目指すデスクには大量の書類がでん、と構えており 彼の意欲を削ぐ 「 この量はまたすごいな 」 「 昨日 処理して頂けなかった物と中央からの激励も含まれています 」 「 昨日は不可抗力だと思うが… 」 ギシリ、と革張りの椅子にその身を沈め 視線で抗議するも 「 確かにそうですが仕上げられなかった大佐にも非があります 」 明らかにやる気を見せない上官をリザは容赦なく切り捨てる そんな彼女の言葉にロイは苦く顔を歪めた 仕方ないといった様子でペンを執り 書類にサインをしていく 有能な副官の前では策士の彼でも頭が上がらないらしい そんな折 リザはあの少女の話を持ち出した 「 …ところでトキヨちゃんの様子はどうですか? 」 「 とくに問題はない 食事も睡眠も取れている 」 「 そうですか… 」 少女の近況を聞いてリザはほっと様だった その様子に男は何食わぬ顔で事務を続けながら こんなことを云い出した 「 思いのほか 君のイメージと異なると思うぞ?あれは 」 「 と、いいますと? 」 彼女の聞き返しにロイは悪戯っぽい笑みを浮かべ 「 そうだな しいて云えば…何処かの地で派手な行動をしている 生意気で優秀な見た目も幼い錬金術師と似た娘だ 」 そう応えるロイのその言葉にリザは小さく微笑した 「 そうでしょうか… そんな事を云ったら怒りますよ?エドワード君 」 「 事実を述べたまでだ 」 さらりと厭味を述べる彼 今頃 噂の主はくしゃみをしているのではないかと内心 リザは思うのだった だが そんな和やかな空気をロイの声が物静かに変えてた 「 …あれの事で何か分ったことは? 」 「 いえ まだ何も 」 「 そうか…引き続き頼む 」 「 はっ! 」 ピッ、と敬礼し 静かに部屋を後にしようとドアへと向かう ノブに手をかけようする彼女を「中尉」と声をかけ引き止めた その声に振り返ると男は頬杖をつき お得意の笑みを作る 「 今朝 私が容姿を褒めたらトキヨが嬉しそうに云っていたよ 「君がコーディネートしてくれた」と…甚く君を気に入ったらしい 顔を出したら喜ぶだろうな 」 それは彼女に対する感謝と褒詞 その言葉には「様子を見にいってくれ」とのニュアンスも含まれる事も リザはすぐに汲み取って仄かに微笑み「はい」と言葉を残して退室した ************************************** 人の足音 人のざわめき それは常に自分の生活にも付いていて 云わば生活の一部であり 煩わしいと感じるものの一つである だが 今はそれが壁一枚隔ててどこか遠い トキヨは膝を抱えながら現実の厳しさを感じていた ここに居るための条件 それは< 妄りに部屋から出ない事 > 国家主義のこの世界 軍が絶対の権力を持っている その軍の施設に身を置くのだから仕方ない事 無力な子供なのだと諦めざるおえないのだった… ( こんなんだったらロイの家の方が良かったかなぁ… ) 静まり返った部屋でただただ時間が過ぎるのを待つトキヨ そこに コンコン とノックの音が響く 緊張しながら来客の合図に返答する 「 はい? 」 「 私よ 入っていいかしら? 」 その聴き慣れた声にトキヨは安堵し「どうぞ」と応えた 開いたドアの先には昨日 お世話になったリザの姿があった トキヨは膝を抱えた腕を解き 真っ直ぐリザへと走り寄った 「 お早う トキヨちゃん 」 「 お、お早う御座います/// 」 勢い余ってつんのけながら笑顔で迎えるトキヨにリザはクス、と微笑した 「 元気そうね 服も気に入って貰えたみたいで良かったわ 」 「 はい…/// 昨日は本当に有難う御座いました 」 「 いいのよ 私も役に立てて嬉しいもの 」 丁寧に腰を折る少女にリザは柔らかな笑みを浮かべる 立ち話もなんだからとソファーへと場所を移し 話し始める 「 あの、お仕事いいんですか? 」 「 あまり永くは居られないけど 大丈夫よ 」 「 良かった…でも大佐がサボりませんか? 」 「 私に此方へ行く様に仰ったのは大佐だから心配ないと思うわ あの心意気で残業もこなして頂ければいいんだけど 」 「 あはは…;; 」 ( とかいって釘刺して来たんだよな〜きっと…。 ) ため息をつきながら上官の愚痴、もとい心配をするリザ 一方のトキヨは容易にその光景が想像できて嫌だ、と力なく笑う そうして一つ二つ言葉を交わすとリザは少女に 心なしか淋しそうに微笑む 「 …ごめんなさいね 」 「 ? 」 「 こんな所で窮屈だと思うけど 私に何か出来る事があたっら 遠慮なく云って? 」 「 リザさん… 」 彼女の優しい心遣いは嬉しくて…そして同時に痛くもあった 「 …有難う でも大丈夫ですよ? 私ヒッキーな人間だから☆ 」 「 トキヨちゃん 」 「 迷惑かけてるのは私の方だし それにこれは等価交換でしょ? 家主様の心温かいご意向で安全で快適に生活できるんだもん <自由>を代価にっていうなら安いもんだよ! 」 そうしてにっこりと明るく微笑むトキヨ だが それは心配をかけまいとする為のものである事は火を見るより明らかだった リザは居た堪れない気持ちになり 少女に声をかけようとした その時 「 失礼します 」 と、軽いノックの後に現れたのは――― 「 どうしたの? ファルマン准尉 」 リザの言葉どおり ヴァトー・ファルマン准尉だった ロイの部下の一人で面白いほどに博識な人物だ 「 ホークアイ中尉 中央司令部からお電話が入っています 」 「 分ったわ 」 「 それと… 」 「 ん? 」 用件を受け 立ち上がったリザだがまだ言葉を続ける彼が自分の傍に居る 少女へとその視線を移した事に疑問符を浮かべた トキヨもそれに気づき 自らに指を指して自分の事か?と首を傾げていると… 「 よ!一日ぶりだな☆ 」 「 ハボックさん! 」 ドアの影からひょっこりと現れたハボック そして それだけに留まらずにもう二人の男が顔を見せた 「 へぇ〜、本当に女の子だなぁ! 」 「 失礼ですよ ブレダ少尉;; 」 「 昨日 話した俺の同僚だ お前に逢いたいって云うから 連れて来たんだが…まずかったか? 」 先程まで此処は監獄か何かだと思い始め 憔悴していたトキヨ だが それは過去の話だ 「 …ッううん!むしろグッドタイミング☆ 」 ぱあ、とトキヨの表情に光が差し込んだ様だった トキヨはソファーから立ち上がるとお馴染の面々に元気よく挨拶をした 「 初めまして☆今日からここにお世話になるトキヨです 宜しくお願いします! 」 再び戻った少女の笑みにリザは安堵し 後を彼らに任せる事にした 「 じゃあ私は行くから あまりトキヨちゃんを困らせない様にね 」 「「「「 は! 」」」」 こちらも威勢良くリザに敬礼をし 背中を見送る 「ありがとう」と小さく手を振るトキヨに笑顔で応え 扉を閉めた パタン、と音がした後 ハボックが面子の紹介をしてくれた 「 んじゃあ そっちから軽く紹介していくか 一番端に居るのがフュリー曹長 メカニックに詳しいんだ 」 彼の紹介に礼儀正しくピシッ!と背筋を伸ばすフュリー 黒ぶち眼鏡でその優しい面持ちはいかにもお人よしですと書いてある 軍人という肩書きが最も似合わないと内心 苦笑しながらお得意の営業スマイルで 握手を求めると少し照れた様子でぎこちなく握手をしてくれた 「 よ、宜しくお願いします/// 」 「 ふふ こちらこそ☆ 」 「 んで、こいつがブレダ少尉。こう見えて結構 頭がきれるんだ 」 「 褒めてんのか?それ 」 「 一応な 」 不服そうにハボックを威圧しながらトキヨの手をとるブレダ 確かに体格はとてもガッチリしているが将棋を打つなど 頭脳勝負ではかなりの人物だ 彼らのやり取りにトキヨは笑いながら 本当にいいコンビだな☆と改めて思っていた 「 次がファルマン准尉 すんげー物知りで歩く辞書。 」 「 宜しく 」 「 はい お願いします 」 長身な彼は少し背中を丸めてトキヨと挨拶を交わした か細い眼に少し扱けた頬の彼は正しくインテリ。 「 それにしても、もっといい紹介の仕方は出来ないんですか? 」 「 そーだそーだ 」 「 まんまだろうが。文句云うな 」 フュリーを除く二名はハボックの紹介に不満がおありの様だ チリチリ、と火花が飛び散っても困るとトキヨは掌を見せ 宥める 「 まあまあ。もう やめましょうよ☆ ね? 」 「 そうですよ トキヨさんも困ってますし; 」 間にフュリーも入り 事は収まると思った……が。 「 あ、「さん」なんて付けなくていいですよ? フュリーさんの方が年上なんですから 」 「 でも呼び捨てなんて失礼な感じがして…/// 」 「 そんな事ないですよ 現に大佐やヒューズさんは 「トキヨ」って呼んでますから。 どうしても落ち着かないんならいいですけどね☆ 」 「「「 … 」」」 いがみ合っている男三人衆を尻目に何故か ほのぼのムードで楽しそうに会話をしているフュリーとトキヨ 一緒に来たにも関わらず蚊帳の外に出せれている三人は どうにか二人の仲を裂こうと声をかけようとした瞬間――― 「 貴様らはここで何をしている 」 「「「「 ?!;;; 」」」」 と、彼らの背後から聞こえた声は勿論 この男 「 あれ?大佐?? 」 不敵な笑みを浮かべて部下たちを見渡す上官ロイ・マスタング 「 ほお…揃いも揃って勤務時間中にサボりか? 」 「 ち、ちがいますよ;; 」 「 俺らはただ挨拶しに来ただけっすよ〜; 」 「「 その通り! 」」 ( はは…情けな〜。 ) 男達の態度の豹変に呆れてものも云えないトキヨ こんな時に限って現れないで欲しいという不満な心根を持つ 部下たちを尻目にロイは真っ直ぐ少女の下へと歩み寄る 「 トキヨ この陽気だから今日の昼食は外で取ろう パスタ料理が上手い店なんだが好きかい? 」 「 うん!パスタ大好き☆ 」 「 決まりだな 」 無邪気に喜ぶトキヨをにこやかに見つめるロイ さあ 話は済んだろうから出て行くだろうと読んでいた 男四人衆は上官の次の行動を全く考えていなかったのであった その行動とは… 「「「「 !?; 」」」」 ふいにロイの右手がトキヨの左頬へと伸び それを撫ぜた 「 髪…はねてるぞ? 」 「 あ、うん…アリガト…/// 」 壊れ物でも扱うかの様に優しく髪を撫ぜ下ろし 整えるロイ それに加えて柔らかに細められた漆黒の瞳にトキヨは更に頬を染める それを見せ付けられ 唖然とする彼らの横をロイは 「仕事に戻りたまえ」と肩を叩き 悠然と立ち去るのだった 「 やったぁ☆お昼はパスタvv 」 と、素直に舞い上がっている少女は大人に遊ばれているとは どうやら気付いてはいないらしい 外野では完全に先を読まれ 少女との交流を逃した 哀れな軍人たちが涙を飲んでいるというのに… 『 ハジメマシテ 』 その言葉から始めよう みんな ハジメは < ゼロ >からだから―――… ************************************** あとがき こんにちわ☆月夜です なんか知らないうちに逆ハー的な話になっていまして 自分でもびっくりです(笑) ガキに構っている暇があるなら 偉い人は早く仕事をしましょうね、とつっこんでやってください☆ では。 |