< 見えない恋心 >




最近、よくぼけーっと空を眺める日が多くなった。
家のベランダの手摺に頬杖ついて、ぼーっとする。
何故か日課にまでなってしまっていた。
別にこれを注意する人物なんていないからだろうか。
今日もぼけーっと空を見上げていると、私を現実に引き戻す声が聞こえた。

「サートル!何ぼけーっとしてんの!」
「…んぁ?ミツキ?」

不意に下から聞こえた声に私は軽く身を乗り出して下を見た。
ミツキがこちらに手を振っている。

「どしたのっ?」
「今日何か予定あるーっ?」

少し距離がある為普通に話す声よりも大きめの声で会話。
ああ、ていうか私が下に降りりゃあいいのか?
けれどそれがどうも面倒だったのでミツキには悪いと思いながらもこのままで。

「特にないよーっ」
「じゃあ今から西の休憩所に行くんだけど一緒にどうっ?」
「西の休憩所?…ああ、いいよーっ今そっち行くねっ」
「うん!」

西の休憩所は確か…。
ああ、何となくそこに行く理由が読めた気がした。
私はそんな事を思いながら階段を降り、急いで玄関を出た。
もちろんすぐ目に映ったのはミツキの姿。
見慣れたグレーのセーターがよく似合ってた。

「お、早いね」
「おう、ダッシュした。」
「そんじゃ行きますか」

と、ミツキが踵を変える。
私はその後を付いていった。



「何か久々だなぁ…街中歩くの」
「ん?散歩とかしないの?」
「散歩は森の方しか行かないから…」

久々に歩く街中をきょろきょろ見回してみる。

最後に見た時と変わりのない活気。平穏が続いている証拠だと、少し安心した。
最近は必要以上に街を歩かなかった。
理由はベランダでぼけっとしてしまうから、それと散歩するなら静かな森の方が私は好きだから。
かといって街が嫌いなんて事は断じてない。

「さーてそろそろ付くかなー」

気付けば既に休憩所が見える所まで来ていた。
…どうやら歩いていてもぼけっとしてしまうようだ、私は。
建物の入り口まで来て屋外へと繋がる階段を上っていった。

「ミツキ、どうせ上にシカマルがいるんだろ?」
「あらま、気付いてたか」
「だってこの休憩所の屋外はシカマルのお気に入りの場所だし」

そう、よくシカマルは屋外にある長椅子に寝転がり、雲を眺める。
言ってしまえばそれがシカマルの日課。
しかし中忍に昇格してから任務がそれなりに増えてしまった為、多分此処に来れる時間は減ったはず。
だから空いてる時間さえあればきっと此処に来るのだろう。
ということは、あいつは今日休みなのかな…。
金属製の階段を音を立てて上っていき、屋外に到着した。

「さてさているかなー」
「そりゃいるだ……ろ……?」

私は一瞬自分の目を疑ってしまった。
いや、シカマルは確かにいる。いるにはいる。
長椅子に座って空を眺めている。
けど。
その隣に言っちゃ悪いが余計な人までいるように見えるのは気のせいか…?

「お、いたいた。シカさーん!ネジー!」
「っっ?!!!;;;;」

…そう、余計な人とはネジのこと。
ミツキの声に気付き、シカマルとネジが立ち上がった。

「遅ぇぞミツキ、サトル拾ってさっさと来いっつったろ」
「ごめんごめん」
「……おいコラ。そこのバカップル」

私の予想が正しければ見事にハメられた気がしてならない。
実行犯であろうシカマルとミツキ…いや提案したのはミツキだろうが、
トーンを落とし低音で怒りをぶつける。

「説明しろ、今すぐ説明しろ。」
「まーまー、サトル、怒らないで。ほら、最近シカさんもネジも任務で忙しくて中々会えなかったでしょ?」

ミツキは宥める意も含めて私の肩に手を置きながら話し始めた。

「で、偶然にもシカさんとネジが今日休みだったの。だから会おうって事になったの」
「……な、何でネジがいる事は言わなかったんだよ…」
「あれー?あたしはシカさんがいるって事も聞かれるまで言わなかったけど?」

……こンの腹黒め…っ!!(泣)
私は怒りに身を震わせていると、ミツキがこそっと私の耳元で囁いた。

「ネジと久々に会えて嬉しくないの?」
「〜〜〜っっ!!!////;;;」

…っとに、参る…。
ちらっとシカマルとネジの方を見ると、私とミツキのやり取りを呆れた目で見ていた。
私は赤くなった顔のまま溜め息をついた。

「ま、何はともあれ久々に顔合わせられたな」
「…そう、だね」
「サートール、嬉しいなら嬉しいってハッキリ言わないと」
「わーっ!うっさい!!;;」
「相変わらず、煩いところは変わっていないな」

ネジも相変わらずそのしかめっ面と嫌な性格が似合ってますよーだ。
もちろんこんな事口にしたら何されるか判らないので、私は言い返さなかった。

「さてさて、久々に4人揃えた事だし、早速雑談でもしますか」

ミツキは見計らったかのように提案をした。
私もシカマルもネジも異議がない為、頷いてさっさと長椅子に移動する。
いつもこの4人が集まると、よく雑談をする。
折角の休みに全員(特にシカマルらへんは)修行を兼ねているとはいえ運動系はやりたくないだろう。
なので大体は雑談をして日が暮れるといった感じなのだ。
話の内容は任務であった事や日常の事や………時々、惚気話とか。
4人が座ってもまだ余裕がある長椅子に座り、馬鹿話をするのは…私は好きだった。
端からシカマル、ミツキ、私、ネジの順に腰掛けるのが小さな決まり。

「そういえばシカマルは中忍になってから任務増えたけど、もうそういうのには慣れた?」

話の始め方は大体が「そういえば」の言葉で始まる。

「まぁな、面倒くせー任務ばっかで休みが少ねぇのなんのって」
「大変だねぇ、シカさん。ネジは?」
「俺は班での任務が多いな…後は宗家の者と時々、な」

…中忍試験後のネジは、少し丸くなった感じだった。
特に宗家を見る目が、変わっていた。
ヒナタやヒアシさんたちへの態度とか…どうした事か、私はそれが嬉しかった。

「て、おい、サトル。何笑ってんだ?」
「んぁ?笑ってた?」
「気持ち悪いくらいに」
「うっわ、酷ッ」

こんな会話が入るだけで、4人とも笑顔になってしまう。
3人の笑い声を聞くのも、私自身声を上げて笑うのも、久しぶりだ。

「サトルとミツキは俺たちが任務でいない時はどうしているんだ?」
「あたしはー、家の手伝いとかかなぁ。あとはサトルと一緒にトキヨのトコまで行ってさ、イルカ先生からかったり!」
「あー、やるやるっ、あの人トキヨの事となるとすぐ真っ赤になってなぁ」

つまりは悪戯をしてくるという事だ。
実は楽しんでるのは私とミツキだけではなく、トキヨも楽しんでいたけどな。
にししっと悪戯っぽい笑みを見せ合う私とミツキ。
と、シカマルに「サトルは?」と聞かれた。
…私は…。

「森の方散歩したり……」
「あとはベランダでぼけっと空眺める、でしょ?」
「っ!ば、ばか…っ」
「能天気な奴だな…」
「うっさい!誰の所為だっ!」
「て、ネジの所為か?」
「…………あ。」

うーわー、もうホント馬鹿だ私…。
感情的になるとつい本音ばっか言ってしまう…。
もちろん3人はじろっと私を見ている。
特にネジの視線が痛い…。
ミツキがニヤニヤと怪しい笑みを浮かべながら私に話し掛ける。

「サートル?」

…この笑いは絶対に見透かしている。
判ってるくせに聞くなよぅ…。

「何故俺の所為なんだ?」
「……いや、それは…」
「あっ!4人ともーっ!!」

突然大きな声が聞こえた。
此処は休憩所だから他に人がいるのに、そんな事もお構いなし、といった感じの大声。

「い、いのっ?」
「あ、それにチョウジも」

階段から姿を見せたのはシカマルと同じ班のいのとチョウジだった。
私はこの二人に会うのはもっと久しぶりだ。
あ、とりあえず助かったな;;

「あららー、ラブラブなカップルが揃って惚気話?」
「ちげぇよこのサスケ馬鹿っ」

いのが嫌味ったらしく言うものだから、シカマルも同じく嫌味を込めて言い返した。
微妙に顔が赤いよ…。
近付いてくるいのの後ろではチョウジがお菓子を頬張っている。


その後は静かだった休憩所もほんの少し騒がしくなった。
ま、いのの所為っつーかおかげというか。


「ふぁー、もう日が暮れてきたねー」

ミツキの言葉を聞くまで気付かなかったけど、もう空はオレンジ色に染まっていた。
外で夕日を迎えるのは久々だ。
街並みにオレンジ色が掛かる。

「早いな…もうこんな時間か」
「気付けばもう他の人たちいなくなってるしな」
「僕らもそろそろ帰った方がいいんじゃなかな」
「そうだな…」

ああ、今日は久々にたくさん笑ったなぁ。
明日の朝、お腹痛くなったりしてな。
……ていうか、今日は久々って言葉使いすぎだな。
階段を降りて、いのとチョウジが先に背を向け帰っていった。
私たちも家路に付いて、しばらく歩くと分かれ道に差し掛かる。

「さて、じゃシカさんとあたしはこっちだから」
「うん…あ、今日誘ってくれて…ありがとう」
「いいって。ま、提案者はミツキだったけどな」
「ふーんだ、シカさんもネジもすぐ賛成したくせにー」
「余計な事を言うなミツキ…」

…夕日を浴びている所為なのか、ネジの顔がほんのりと赤く見えた。

「そんじゃ、また休みの日にねっ」
「じゃあな」
「うん、またねっ」
「ああ…」

ミツキとシカマルが背を向けて歩いていった。
ほんの数秒その後姿を見送った。

「俺たちも行くか」
「あ、うんっ」





「はーっ、今日はすごく楽しかったねー、シカさん」
「まぁな」

沈みかけてる日に向かい歩く二人。
街中を歩く人々の数は昼間と違い、とても少なかった。

「…いつも任務だったから疲れてなかった?」
「いや、大丈夫だ。そりゃゆっくり休みたいって気もあったけどよ、ああやって雑談する方がいい」
「…そっか!よかった!」

シカマルの言葉を聞き、満面の笑みを見せるミツキ。
夕日に照らされている所為か、シカマルにとってはいつものミツキの笑顔よりも少し輝いて見えた。
照れ隠しのように、シカマルは外方を向いた。

「にしてもお前って本当に友達思いっつーか…」
「ん?どして?」
「サトルの事。あいつが空ぼけっと眺めてるのが気になったから誘ったんだろ?」
「あらまぁ、シカさんはやっぱ理解力があるねー」
「まぁな。どうせあいつ、空眺めながらネジの事でも考えてたんだろ」
「最近全然会ってなかったからねー、ネジの事心配してるんだよあの子」
「…それに気付いてやれるお前も、優しい奴だな」
「…そうかな?」
「…訂正、お節介の間違いだ」
「うっわ、失礼な!」

一瞬穏やかな表情を見せたミツキだったが、シカマルの一言に眉間に皺が寄る。
そんなミツキを見て、シカマルは溜め息をついた。

「…お前、今両親任務でいなかったよな?」
「何、突然」
「……家来い。夜に女一人で留守番なんて危なっかしくて仕方ねぇ」
「……え、いいの?」
「俺は全然構わねぇし、うちの両親がお前を迷惑なんて思うわけねぇだろ?」
「……ん、ありがとっ」

ミツキはいつもの無邪気な笑顔とは違い、本当に幸せそうな笑顔を見せた。
シカマルはそんなミツキを横目で見て、ふっと微笑んだ。
…と、ミツキはほんの少し歩く速度を落とす。

「…シカさん」
「あ?」

シカマルは隣からではなく、後ろから聞こえた声に不思議そうに振り返った。

…その瞬間、唇に触れた暖かい感触。

視界はほんの一瞬だったけれど、ミツキの顔だけになる。
確かな温かさを残して、すぐにその感触は離れた。

「…ミ…っ」
「大好きだよ、シカさん」

ほんのりと染まった頬。
優しい笑顔。
人並みの少ない街中だったけれど、自分達しかいないように思えた。
シカマルは踵を変えると同時に、ミツキの腕を引いた。

「…っ…さっさと、帰るぞ」
「…うん」

お互い表情は見えないけれど、簡単に想像できた。
…きっと幸せそうに…。





「この時間になると結構寒いなぁ…」
「そうだな」

シカマルとミツキと別れてから、ゆっくりめの速度で歩く私とネジ。
コンパスの長さにそれ程違いはないから、どちらかが歩幅を相手に合わす必要もない。
私のとっては丁度いいペースだ。

「…そういえば、結局あれは俺の所為なのか?」
「?あれって…?」
「ぼけっと空を眺めているというのは」
「あ…っ;;」

思い出したくない会話の場面が脳裏に過ぎる。
そういえばいのとチョウジが乱入してくれたおかげでもう話さないと思ってた。
…恥ずかしくて言う気になんないんだけどなぁ。

「俺の所為なのか?」
「いや…それは…」
「違うのか?」
「いや……」
「…ハッキリ言え」
「……う…」

傍から見れば相当笑える光景だろう。
…私が黙っていたってお互い困るだろうし、言う決心をした。

「…最近ネジが任務ばっかだったから…その…心配してて…」
「心配?」
「…怪我、してないかとか、今は何してるのかな、とか」

正直に嘘偽りのない言葉を必死に並べた。
…今、夕暮れ時でよかった。顔が赤かったら、少しはそれを誤魔化せるだろうから。
ネジの顔を見る勇気はない為、目を見開いているのか苦笑いでもしてるのかさえ判らない。
ただ、ネジから返ってくる言葉を待っていた。

「………」
「………」

歩く音とほんの小さな人の話し声だけが耳に響く。

「………」
「……〜〜っ何か言えよっ!!」

沈黙に耐えられなくなった私は大声を上げた。
つか、人が必死にしかも恥ずかしがりながら言ったのに無言ってどうよ。
バッとネジの顔を見て、目を見開いてしまった。
…これも夕日の所為だろうか、ネジの顔が赤い。

「…ね、ネジ?」
「…ハッキリ言えと言ったのは俺だが……いざ言われると…その…」

…何か、こんなネジ初めて見た、かも…。
あ、そうか。私っていつも恥ずかしくて本音言えなかったりだったもんな。
素直に言ったら言ったで、ネジも結局照れるんだ。
…無意識に、歩く速度を落として、目の前にある背中に抱きついていた。

「っ!さ、サトル?」
「………今日、久々に会えて、よかった」
「………」
「怪我なんかしてなかったし、何処も変わってなかったし、安心した」
「………」
「……よかった」

ああ、どうしよう。
きっと、今自分の顔はすごく真っ赤で。
足も少し震えていて。
……どうしようもなく、幸せな顔してるんだろうな。
ネジの顔は見えないけど、どんな表情だろう。
困った顔か嬉しそうな顔か。

「……サトル」
「…ん?」
「好きだ」
「…うん」



明日もまた、空を眺めるんだろうな。





ああ、早く家に帰りたいな。
今は温かいけれど
歩き出したらまた寒くなる。


*HAPPY END*



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後書き。 初のNARUTOのHR小説でございます。
シカミツとネジサトです。
サトル視点ですが別に彼女を主人公のように考えてはないんですよねぇ。
でもそう見えるかな、たはは;;;
…どうも私はほのぼのハッピーエンドを書くのが好きな模様。
いやシリアスも大好きですけど…ようは全部好き(笑)
あ、会話にちらっとイルトキが出演しておりますが…こんな扱い逆に失礼な気も;;;
月夜さんすみません;;でも次書く小説ではしっかり出演させますよ(きらん
それでは、ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。