酒場に漂う甘い香りを、犬が嗅ぎつけた。

< Sweet×Sweets >

「何やってんだお前ら?」
「あら、さすがに犬は気付いたようね」
「やっぱドルチェットは鼻がいいんですねぇ」
「………で。何やってんだよ」

今日は珍しくデビルズネストは閉店。
いつもは酒場の手伝いやら何やらで忙しいのだが、久々の自由な時をそれぞれ満喫中の頃、
鼻のいいドルチェットは調理場から匂ってきた甘い香りに気付き、普段はあまり訪れる事のない調理場に足を踏み入れた。
そこで目にしたのはそれ程珍しくもない組み合わせのマーテルとサトルの二人だった。

「サトルが珍しくお菓子作りたいだなんて言うから、ちょっと付き合ってるのよ」
「あはは、作り方を教えてもらってる、の方が合ってますけどね」
「それもそうね」

どうやらデビルズネストが閉店だというのを狙い、サトルはマーテルにお菓子の作り方を教わっていたのだ。
まぁ、女だし菓子を作るくらい不思議な光景ではないだろうとドルチェットは思ったが、
一つ意外な事実を知った為かきょとんとした顔で台所を覗き込んだ。

「……マーテル、お前菓子なんて作れたのか?」
「失礼ね、食事当番の殆ど私が受け持ってる事知ってるでしょ?お菓子作るのだって朝飯前よ」
「………へー」
「それとも私がお菓子も作れない女だと思ってたのかしら…?」

マーテルがそれはそれはイイ笑顔を見せるのは必ず怒ってる時。
もちろんドルチェットは自分の失言を後悔する前に、反射的に両手を上げ「スミマセン」と言った。
そんな光景を苦笑いしながら眺めるサトル。

「あー、えっと…な、何作ってんだ?;;」
「パウンドケーキです」
「…ぱうんど…?」
「パウンドケーキ。長方形の紙ケースに生地を入れて焼くのよ。ナッツやチョコレートとかトッピングして」
「ああ、とりあえずケーキか。」

ドルチェットらしい理解の仕方にマーテルは溜め息をつき、サトルはまた苦笑いした。
と、サトルは生地の入ったケースを鉄板の上に乗せ、オーブンの方まで運んでいった。
そして焼き時間を設定し、最後にピッとスイッチを押す。

「よし。後は焼き上がるのを待つだけよ。20分から30分ってとこかしら」
「はい。ありがとうございました、マーテルさん」
「どういたしまして。あ、そうだわ。ドルチェット、焼き上がったら後でミツキとアンタの分持ってってあげるからね」
「て、俺らの分まで作ったのか?」
「材料有り余ってたし、多めに作っといたのよ。で、何処に持ってけばいい?アンタの部屋?」
「…あー、じゃあミツキんとこいる…あいつの分もあるんだろ」
「判ったわ、じゃあ後でね」

おう、とドルチェットは二人に背を向け片手を上げる。そしてそのまま調理場を出て行った。
マーテルはドルチェットが出て行くのを確認すると、突然噴出し、声を押し殺して笑い始めた。
それをきょとんとした顔で見つめるサトル。

「ま、マーテルさん?」
「…フフッ、あいつったら…ホント落ちたわねぇ…」
「へ?」
「ミツキにぞっこん。って感じじゃない?」
「……ぷっ。」

今度はサトルが噴出した。

「ま、幸せそうで何よりだわ。サトルも頑張りなさいよ?」
「…?」
「だってグリードさんにあげたいから作ったんでしょ、お・菓・子。」

それを聞いたサトルは見事に顔を真っ赤にし俯いてしまった。どうやらご名答のようだ。
マーテルはふっと笑みを零すと、サトルの頭を撫でた。

一方、ドルチェットは……

シンプルな構造の廊下を歩き、ミツキの部屋に向かっていた。
廊下はやけに静かだった。きっと他の仲間達は外出しているのだろう。
そんな事を思っているうちに、目的の部屋の扉の前まで辿り着いた。
ドルチェットらしくもない控えめなノックをした。まぁこの部屋の主は女だし、それなりに気を遣ったのだろう。

「ミツキ、いるか?」
「はーい…ってドルチぃどしたの?珍しい」
「あー。説明すっからとりあえず入れろ」

扉が開き、ひょこっと顔を出したのはミツキ。
ミツキは珍しい訪問者に目を丸くしながらも、ドルチェットの言うとおり部屋に招き入れた。
因みにそれぞれの部屋の構造はグリードを除き大体は一緒。
狭くも広くもない部屋にベッドや机、ソファ、その他に何処にでもありそうな家具がいくつか置いてあるぐらいだ。
ドルチェットはどかっとソファに腰掛ける。ミツキはその隣にちょこんと座った。

「んで、どしたの?」
「あー、マーテルとサトルが菓子作っててよ、俺らの分も作ったからできたら後で持ってくって言われたから、じゃあミツキの部屋まで来いっつっといた」
「なんで私の部屋……」
「運ぶ手間が省けるだろ」
「あ、そっか。…優しいねぇ、ドルチぃは」
「べ、別に…っ」

心なしかドルチェットの顔が赤いのは気の所為だろうか。
そんなドルチェットの反応に、思わず噴出してしまうミツキ。

「わーらーうーな。(怒」
「だぁってドルチぃすごく可愛いんだもんvv」
「男が可愛いなんざ言われて喜ぶかぁっ!!!/////;;」

尤もな意見のようでドルチェットが言っても説得力ないようで(笑)
あっという間に時間は過ぎた。

しばらくするとマーテルが部屋に入ってきた。甘い香りを漂わせながら。
両手には銀のトレイを持ち、その上にはこんがりと焼けたパウンドケーキが。

「あら、お邪魔だったかしら」

と、まるで確信したかのような笑みを浮かべている。
そんなマーテルの言動に眉間に皺を寄せるドルチェット。

「わーっ、美味しそうっ」
「サトルと一緒に作ったのよ」
「わぁ、すごいーvv」
「すげぇ甘そう……」

パウンドケーキを見てさらに皺が寄るドルチェットの眉間。
マーテルは二人が座っていたソファの目の前にあるテーブルにトレイを置いた。
そして、ごゆっくり。と意味深な言葉を残し、部屋を出て行った。

「ホント美味しそうだなぁvよし!じゃあドルチぃ、食べますか!」
「お、おう…」

ミツキはフォークを手に取るとチョコがトッピングされてるパウンドケーキを自分の皿に寄せる。
ドルチェットは無造作に栗入りのパウンドケーキを手に取る。
ミツキは大きく口を開けて、一口サイズに切り分けたケーキの欠片を口へ運ぶ。
しばらく舌の上でそれを味わい、最後にはゴクンと咽喉を鳴らした。

「美味しいーvドルチぃも早く食べなよ、すごく美味しいよ!」
「お、おう」

ドルチェットはミツキが食べたよりも少し大きめの欠片を口に入れた。
……そしてミツキとは些か違う反応を見せた。

「………甘ッ。」
「そりゃケーキだし」

尤もなミツキの意見。

「あー、俺はもういい。後はお前食え…」
「あのねぇ;;」

どうやらドルチェットには甘すぎたようだ。
ミツキは呆れながらも自分の分のケーキを食べ続ける。
ドルチェットはそんなミツキを見て、何故こうも女とは甘いものが好きなのか…と少しずれた事を考えていた。
と、しばらく視線を泳がせていたドルチェットだったが、ふとその視線はミツキの頬に。
…頬にチョコがついていたのだ。
当のミツキはそんな事にも気付かずにケーキを頬張っている。
さすがに言った方がいいだろうと思い、ドルチェットは美味しそうにケーキを食べるミツキの手を止めさせた。

「ミツキ、頬にチョコついてんぞ」
「へ?どこに?」
「ここ」

と、ドルチェットは自分の右の頬を指差した。

「ここ?」
「逆だよ。」
「こっちか」
「もうちょい上っ」
「…ここ?」
「上すぎる!」

そんな行為が何度か繰り返される。
しかしなかなかミツキの頬についたチョコは取れない。

「だーっ!!面倒くせぇ!!顔貸せっ!!」
「へ?……ぅわぁ!!!;;;」

ドルチェットはミツキのこめかみらへんを掴み、自分の方へ引き寄せた。
そしてチョコがついているミツキの頬に自分の顔を寄せると……。

ぺろり。

「〜〜〜〜〜〜っっ?!!!///////;;」

ミツキは驚きのあまり叫び声さえ上げそうになってしまった。
ドルチェットはそんなミツキを気にする様子も見せず、すっとミツキから離れた。

「あっま……。…どうしたミツキ、顔赤いぞ?」
「だっ、誰のせいだぁ!!!//////;;;」

ミツキはしれっとしたドルチェットの態度がムカついたのもそうだが、
何より突然頬を舐められた事が頭にきたのだろう。
その証拠に顔は真っ赤だ。
しかしドルチェットの悪い事をしたという認識は薄い。
犬との合成の所為か、人を舐めるという事に対し恥ずかしがる様子も躊躇う様子も見せない。
自覚すらないのだ。……それはそれで困るっちゅーに。(笑)

「ガキじゃあるまいし舐められたぐらいでんな喚くなよ」
「普通喚くでしょ!!//////;;」

ミツキは舐められた頬を手で押さえながら真っ赤な顔でドルチェットに大声を浴びせた。

「やっぱドルチぃは犬だ犬!!!」
「ああ?!俺のどこが犬だってんだよ?!!」
「自覚ないのか!馬鹿犬!!」
「犬犬言うんじゃねぇよ!!!」
「犬犬犬犬犬いーぬーっ!!!」

ぶちっ。

と、急にドルチェットは真剣な顔になる(内心怒り狂ってるだろうが)。
ミツキは訳が判らず、きょとんとする……と。

突然ミツキは頬を大きな手に包まれ、引き寄せられる。
………唇には、温かい感触。

「…っ!」

一瞬、何が起きたのか理解できなかったミツキ。
気付けばいつもとは少し違う口付けに戸惑っていた。
…しばらくして、唇が離れた。
ミツキは急いで酸素を肺に送り込んだ。

「な、な……」
「……で、俺がなんだって?」

勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ミツキに問い掛けるドルチェット。
しかし今のミツキは思考回路が完全に止まっている為、返答する事もできない。
そんなミツキの様子に満足したのか、ドルチェットは頬に添えていた手を離した。

「さてと、マーテル達にゃ悪いけどコレ返してくるとするか」

ドルチェットは食べかけのケーキをトレイに乗せ、それを持ち上げると扉の方へ向かった。
トレイを片手で持ち直し、もう片方の手でノブを回し扉を開ける。
そして、くるりとミツキの方に顔だけを向ける。

「ミツキ、次からはキスする前に甘いモン食うんじゃねぇぞ。ただでさえお前の口甘いんだからな」
「…っ?!」

バタン、と扉の閉まる音が、静まり返った小さな部屋に響いた。
ミツキは鏡を見ずとも判る、きっと真っ赤に染まっているであろう自分の頬を両手で包んだ。
少し顔を俯かせて、小さく小さく呟いた。

「…………馬鹿犬……っ」

お菓子とは違う甘さが、口の中に広がった。

*END*

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後書き。
皆様、こんにちわ。副管理人の水無月悟でございます。
えー、今回この小説はリクエストしてくださった天ちゃん(天堂寺光稀さん)に捧げます!
文才の無い頭を捻りに捻って書いた駄文です…。あいたたた(蹴)
因みにリクエストは「激激甘ドルミツ」とのことでした(笑)
いやー、激激甘できたか天ちゃん!頑張ったけどどうでしょう?!
最後らへんは見て見ぬフリでもして下さい!恥ずかしいったらありゃしねぇ!!!;;
いやまぁ、書いてて楽しかったですけどね。(皆様、石の準備はよろしいですか?)
勝手に微妙にグリサトが入ってる時点で私の趣味満載ってのはバレバレです。
マーテルさんを出演させれたのは個人的に嬉しかったvv

ではでは、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
そして天ちゃん、こんな駄文ですがどうかお受け取りください…。
それではこのへんで。ありがとうございましたー!

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