雨が上がったら

一緒に虹を見に行こう

***HR story*** Greed×Satoru

「よく降るなぁ、おい」

今日の天気は…見事に雨。
別に梅雨の時期ではない。晴れが続いていた中、突然降り出したのだ。
グリードは自室の窓から外を眺めていた。

「仕方ねぇ、これじゃ外に出る気も起きねぇし、酒場もどうせ客居ないだろうな」

グリードはマーテル達が酒場に居る事を予測し、とりあえず酒場に行く事にした。
酒場へ続く廊下を歩き、グリードはふと、ある扉の前で立ち止まった。

「(そぉいや最近は酒場手伝ってもらってばっかでマーテル達と談話の一つもしてなかったよなぁ)」

酒場来さして馬鹿話でもすっか。グリードはそんな事を思い目の前の扉のノブに手をかけた。

「おい、入るぞサトル……」

返事も無ければ物音もしなかった。ただ雨音が聞こえるだけ。
各々の自室は狭くもなく広くもない部屋だ。とりあえずグリードは除いて。
隠れられる場所もない…というか隠れる必要も無いだろう。
グリードはサトルが部屋に居ない事を確認すると、酒場へと向かった

「だぁから!邪魔すんなっつってんだろうがっ!!」
「最近ドルチぃ冷たい…っ、恋人より刀の手入れのほうが大事なのか〜っ!」
「露骨に言うな恥知らずっ!!//////;」
「ていうかイチャつくなら場所選びなさいっ!!」
「落ち着けマーテル…」

「………騒がしいねぇ。」

酒場へ続く扉の前で、思わず苦笑いしたグリード。しかしこんな会話を聞くのは久しぶりな気がした。
ともかくこの騒がしい空間に入り込む事を決意する。

「おーおー、賑やかだねぇ」
「あ、グリードさん」
「やっほぅ、強欲さ〜ん!」

おう、とグリードは片手を上げて応えた。そしてキョロキョロと店内を見回したが、目的の人は見つからず。
そんなグリードを不思議そうに見ていたドルチェットがどうしたんですかと尋ねた。

「あ〜、サトル探してんだけどよ、見てねぇか?」
「サトルですか?俺は見てないっすけど…」
「…!ああ、あたし見たよ!階段上ってくところ!」
「しかし…このすぐ上は他の連中の部屋ですな。そのさらに上は屋上ですが」
「あ?てこたぁサトルの奴グリードさん以外に興味あるん……」
「何か言ったか忠犬。」

それはそれは鬼のような形相のグリードさん。
ドルチェットはもちろん「ごめんなさい」を連発した。

「仕方ねぇ、屋上行ってくる」
「行ってらっしゃ〜い、あ、もし屋上にいたら此処連れてきてね!皆で話しようって」
「おー。」

パタンと静かに扉が閉まった。
しばらくは沈黙が続いたがマーテルの溜め息で元に戻る。

「ドルチェット、アンタ本当に考えてモノ言わない馬鹿ね」
「どんな馬鹿だろうとグリードさんにあのような発言をする馬鹿は滅多にいないな」
「うるせぇやい(泣」
「でもそこがドルチぃの可愛いトコだよねv…ていうか忠犬って言われたけど主人あたしか?(笑」
「しっかり躾といてちょうだい。」
「一般常識というものを教えておいてくれ。」
「うるっせぇぇぇ!!!!(泣」

一方、ミツキの情報を元に屋上へ続く階段を上るグリード。
念のため此処に来るまでに全ての階を見回ってきたが、サトルの姿は無かった。
まだ雨は降り続いている。そんな中、本当に屋上にいるのかと疑う気持ちは消えなかった。

「つーか俺も女一人の為にここまでやるたぁ落ちたもんだ。」

嘘か本音か、言っている本人にもそれは判らなかった。
屋上へ続く扉を開けると、予想通り強い雨が降っていた。
雨に打たれる事を気に掛ける様子もなく、グリードは当たりを見回す。
見当たらない為今度は裏へ回る。これで見つからなければ外に行く事になるだろう。

見つけた…

手摺に肘をついて、遠くを眺めていた。
雨でびしょ濡れになっているにも構わず、その場を動こうとはしない姿。
このままにしておいたら間違いなく体調を崩すだとうとグリードは悟った。

「おい馬鹿女。風邪引くぞ」

グリードは歩み寄りながら声をかけた。
サトルは特に驚く様子も見せずに、顔だけを声のする方へ向けた。

「……どうしたんですか?」
「こっちの台詞だ、馬鹿。部屋にも酒場にもいないと思ったらこんな所に居やがったのか」
「あはは、すみません。ちょっと考え事をしてたもんで」
「雨に濡れる必要があったのか?」
「スッキリするかなぁと思ったから」

グリードは溜め息をついて呆れている事を表現してみた。
しかし特にサトルは動揺しなかった。何故か苦笑いを浮かべている。
とにかく、グリードは室内に連れて行く為にサトルの腕を掴んだ。

「ぅわっ…」
「さっさと体拭け。風邪引くぞ」
「あ、あのっ、グリードさ…」
「うっせぇ、病人もどきの意見は聞かねぇ」

何ですかもどきって。サトルはどうせ聞いてもらえないと思い、大人しく引っ張られていった。

「あ、サトルっ。どうしたの、そんな濡れた格好してっ」

酒場の扉が開き、グリードと雨で酷く濡れたサトルが入ってきた事に一番最初に気付いたのはミツキだった。

「マーテル、タオル持ってこい。ロアはあったけぇ飲み物でも入れてやれ」
「あ、はいっ」

バタバタとロアとマーテルが動き出す。
グリードは乱暴にサトルをソファに座らせ、その隣に自分も腰掛ける。

「…どうしたの、サトル」
「…ん、何でもないよ、大丈夫。…ごめんね」
「何でもなくないだろ。ちゃんと話せ。何考えてたのか」

グリードは少し怒った口調でサトルに問い掛けた。
何故グリードが怒っているかはミツキもドルチェットも察しがついている。
もちろん、サトルも。
そこへマーテルがタオルを持って戻ってくる。空気が読めるマーテルはタオルを置いていくとロアを手伝いに行った。

「…………いやぁ、私やっぱグリードさんの事好きなんだなぁと。」
「「「は???」」」

予想だにしない言葉が返ってきた為、三人とも間抜けな声を出してしまった。
当のサトルは濡れた髪をわしゃわしゃとタオルで拭いている。 グリードは珍しいサトルの発言に微かに頬が朱に染まる。
そして半分硬直気味のグリードに変わってドルチェットが問い掛けた。

「どういう意味だよ、それ;;」
「んー、何と言うか…グリードさんは何時も積極的に接してくれて私はすごく嬉しくて、
でも私は恥ずかしくて同じような事できなくて…」
「「(いやいや、グリードさんと同じ接し方した日にゃ襲われるぞ;;;)」」
「……私は本当にグリードさんの事好きなのかなって疑った。」

その瞬間、三人の表情が一変する。
しかしサトルはすぐに笑顔を作り続けた。

「頭冷やす意味も含めて雨に当たって、考えたんだ。寒くて怖かったかな、ちょっと。
でもグリードさんが来てくれた時すごく嬉しくて…。ああ、やっぱり私はグリードさん好きだって」

ふにゃっと頬を緩ませて笑うサトルに一気に脱力する三人。
ドルチェットとミツキは「なんじゃそりゃ」と言いた気な顔だったが、
グリードはサトルの頭を自分の肩に引き寄せると、ほんの一瞬、ニカッと幸せそうな笑みを作った。
そんな二人を見て、ドルチェットとミツキは思わず笑みを零した。

「あ。雨…上がってる」
「ホントだ、だんだん晴れてきたね〜っ」
「……よし、サトルついて来いっ」
「へ?…うわっ、何ですか?!」
「いーから来い!」

外に出て、空を見上げたら

きれいな虹が見えた

しばらくしてから酒場へ帰れば

少し冷めたココアが一つ。