君に居て欲しいから *---Gentleness---* 昼下がり、青い空の下 ここ、ダブリスは、のどかな日和で、 屋上で洗濯物を干し終えたミツキは、 手すりに肘を乗せ、ぼーっと空を見ていた 「ふぅ…」 遠くから聞こえる、人々の賑やかな声 風の音、雲の流れ このゆっくりとした時間が好きだったっけ… …いかん…また、思い出しちゃったな… 「ミツキ!」 ふと、現実に引き戻してくれた声 「マーテルさん」 「なァに、ぼーっとしちゃって、若い子が」 「うん…」 「…はっは〜ん、さては悩み事?しかも恋愛関連と見た」 「お〜、惜しいかなぁ(笑)」 「あたしでよかったら、話してご覧なさい」 ねっ!と微笑んでくれたマーテルに、 ミツキは、苦笑混じりに、ぽつぽつと話し始めた 「あたしねぇ…好きな人、いたの だけどね、その人には…もう逢えなくて、 前はね、少しは接点ていうか… まぁそんなのがあったんだけどね… だけど、アメストリスにも、シンにもいない人で、 …多分、もう二度と逢えない、かなぁ」 「それって…」 死んだって事?と聞きかけてやめた もしそうなら、これ以上の苦痛はない ミツキからすれば、その人は、"世界"すら違う人 説明するのが難しくなってきたので、 軽く微笑んで、さりげなく話を逸らした 「せっかく此処に来られて楽しいのに、 みんないい人達で、優しくて… グリも、ドルチぃも、ロアさんも、勿論、マーテルさんも… だけど、なんでかなぁ…いっそ忘れたら楽なのに、ね」 「ミツキ…… ミツキは、その人のこと、忘れたいの?」 「…できるなら、忘れたくない、けど、でも…」 「そう」 もし、ミツキの"好きな人"が死んでるなら、 忘れてしまった方がいいとは思う だけど、見てしまったから 彼女が唯一持っていた鞄 その中から取り出した、一冊の薄い本 さらに、その中から取り出した、一枚の小さな紙 それを見て、微笑む、ミツキ おそらく、その"好きな人"が関係しているのだろう その時のミツキが、あまりにも優しい表情だったから その場を後にしたけど… もしかしたら、 いつかその人の元へ行くために、ここを出て行くんじゃないか… そんな不安が、その時にふと過ぎったのも事実だった そりゃあ、ミツキは、ドルチェットが誤って連れてきた子だけど、 だけど… *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-* 「ミツキ、そんなこと言ったの?」 「ああ」 ドルチェットが、ミツキに自分たちの体のことをうち明けた日の夜、 その結果を聞いたマーテルとロアは、驚きを隠せなかった 「俺達が合成獣だって知っても、 あいつ、俺達のことが好きだって、言ってくれた」 「…あの子…」 「本当に不思議な子だな、ミツキは…」 「…なぁ、マーテル 確かにミツキは、俺が間違って連れてきちまった奴だ だけどよ、ミツキは、もう俺達の仲間なんだ 俺の我が儘かもしれねぇけど…傍にいて欲しい… だってあいつは、俺達を"人間"だって言ってくれた そう"認めて"くれたんだ… だから、表とか裏とか関係なく、傍にいて欲しいんだ」 「…ドルチェット…ま、あんたの場合、 ミツキに惚れてるからってのもあるんでしょうけどねぇ。」 「ま、マーテルッッ!!////」 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-* 「…その人じゃなきゃ駄目とか?」 「ん?」 「ほらァ、他に好きな人が出来たら、 また変われるかもしれないでしょ?そういう人いないの? 例えばそうねぇ…この酒場の連中とかでいないのかしら?」 そう聞かれ、ミツキの頬が無意識に赤く染まった 「え、えっと…そ、それは、えっと…」 「…あら?もしや、いたりするの?」 「す、好きな人じゃないよ!ま、まだ、その…////;」 「誰よ、ミツキ? グリードさん?それともドルチェット?それとも、他の誰かかしら〜?」 「うぅ〜///」 俯くミツキに、マーテルは笑みをこぼす (なぁんだ、チャンスはまだあるじゃない♪) 実はマーテルは、ドルチェットに言われてここにやってきたのだ 数分前、酒場にいたマーテルは、グリードに頼まれ、 屋上にいるミツキを呼びに行く途中、ドルチェットに呼び止められた 「おい、マーテル」 「あら、ドルチェット、何か用?」 「何処に行くんだ?」 「ちょっとミツキの所に」 「あ、じゃあ聞いてきて欲しいことがあんだけどよ…」 その内容は、まぁなんとも青い青い相談事で、 「つまり何?ミツキに、外に男が居るかどうか聞けって言うの?」 「頼む!俺からは聞けねぇし…」 そう言って頭を下げるドルチェットに、溜息を一つついて、 現在に至るのである 「…まぁ、いいわ… とにかく、その"気になる"を"好き"に変えればいいのよ!」 「え、あ、は、はぁ;;;」 「相手が誰だろうと、やっぱりそれが一番よ!そうと決まれば…♪」 ニヤッと笑い、マーテルはミツキを残し、屋上を後にした *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-* 「ガンガンアピールしなさい」 「…は?」 突然のことに目が点のドルチェット がしっと肩を掴まれ、ブンブンと揺さぶられる 「聞こえなかったの?お馬鹿犬!! ガンガンアピールなさいって言ってるの!!」 「だっ、だか、ら、な、なに、なにがっ!?(ガックンガックン)」 「いい?!ミツキは今傷ついてるの、傷心中なの!! だから、あんたがしっっかりたっっぷりアピールすれば、 必然的にミツキはあんたの元に落ちてくるのよ!!わかる?!」 「い、いや、ちょ、ま、待て!!う、キモチワルイ…(ブンブンブンブン)」 「ミツキがあんたに惚れてくれりゃ、 ミツキがここからいなくなることはないのよ!? そしたら、あんただけじゃなくて、 あたしも嬉しいわけ、わかってんの?!」 「わかっ、わか、ったから、やめろ!ヤベ、ハキソウ …」 「よォし…そうと決まれば話は早いわ…! 絶対にあんたとミツキをくっつけてあげる!! 感謝しなさいよ、ドルチェット!!」 「ハ、ハイ;;;;;(脂汗)」 ミツキは、ドルチェットが誤って連れてきてしまった子 だけど、もうマーテルにとっても大切な子になっていたようだ 昼下がりのダブリス それはそれは、のどかな日和だった *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-* 「お〜い、マーテル」 「あ、グリードさん」 「ミツキはまだかぁ?」 「………あ;;;」 本当に、それはそれはのどかな日和だった |