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本日は快晴

洗濯物を干すのに最適な日
爽やかな昼時のダブリス

この町の小さな酒場・デビルズネストで、

事件は起きていた


*-----------------*
Cockroach princess
*-----------------*



「グリードさんの馬鹿ぁ〜〜〜っ!!」



地面をも揺るがしかねない罵声
ものすごい声を発した人物は、
ばたばたと乱暴な音を立てて走り去っていった

その人物が出ていった調理場には、
二人の男女が残されていた





――――― 事の発端は、ほんの数十分前に遡る



「ちゅっちゅらちゅら〜ちゅっちゅ〜らちゅらら〜♪」


ご機嫌な様子で洗い物をしているミツキ
ごく一部の人にしか分からないだろう歌を歌いながら
次々と汚れ物を浄化していく

そこに、この陽気な歌を聞きつけた酒場の主が調理場に入ってきた


「随分機嫌がいいなぁ」
「おや、グリードさん!」
「なんだ?今日は何かあんのか?」
「えっへへへ〜☆今日はドルチぃと、お・で・ぇ・とvvv」


きゃ〜っ!と照れながらも、
皿を洗う手を止めないミツキはある意味凄い


「デートねぇ」


グリードはふと、ミツキのお相手である忠犬を思い出す


「苦労しただろ、デートが決まるのに」
「そりゃぁもうドルチぃったら、人混みは嫌いだの恥ずかしいだの言って、
 なっかなか了解してくれなくてぇvvv」
「がっはっは!だろうな!」
「だからもう楽しみで楽しみで仕方なく…て……」


      ぴたっ


先程までどんなに惚気てても止まらなかったミツキの皿を洗う手が止まった


「どーした?」
「……………ッ(ガクガクガクガク)」
「?」


グリードが近づいてミツキの視線の先を見ると、
光稀の手元に、不気味に黒光りする怪しい影が…


「…ありゃぁ、ゴキ…」
「―――――――――――ッッ!!!!」


声にならない声で叫び、思わずグリードに抱きつくミツキ



そう

ミツキはゴキブリが大嫌いだった
といいますか、石の下にいそうな虫類が大の苦手だった


そのゴキブリが、彼女の手元近くに居たのだから
こんな状態になっても仕方はなかった


「……いやぁ〜〜〜〜〜ッ!!!!出た〜〜〜!!
 地下だからいつか出ると思ってたけどぉぉぉぉぉ!!!」
「お、おい、ミツキ、落ち着け」
「へ、ヘルプッ!!ヘルプミープリーズッッ!!!」
「待ってろ、今潰してやっから」
「NOッ!!!駄目駄目駄目!!それ駄目!!絶対駄目!!」


泣き喚くミツキの肩を左手で抱きながら、
右手でゴキブリを潰そうとしたが、
ものすごい形相になっているミツキによって阻まれた


「グリードさん、知らないんですか?!
 アレは、潰されると自動的にお腹の卵が孵って万倍に増えるんですよ!!!
 アレが万倍アレが万倍………うわあぁああぁぁぁぁっ!!想像しちゃったぁぁぁ!!!」
「とりあえず落ち着け、な?(すげー声…これがドルチェットじゃなくて良かったな…)」


わんわん泣くミツキの涙を拭いながら、腕の中の彼女を改めて見てみた

自分で言ったことに自分でおびえるミツキに驚きは隠せなかったが、
こんなに本気で取り乱したミツキを初めて見たことに新鮮味を感じていた


  その時


「ミツキ、どーした……の……」


先程の悲鳴を聞きつけたサトルが調理場にやってきたのだ
もうわかっているだろうが、彼女はグリードの恋人である


「えっと…」


サトルは目の前の光景を、冷静に分析しようとした


顔を真っ赤にして涙目で抱きついているミツキと
右手で彼女の涙を拭い、左手で彼女を抱いているグリード


どう考えても答えは一つしか出てこなかった


「〜〜〜〜〜ッ!!!何してんですかぁっ!!!」

「あ?これはな…」
「黙れぇぇぇっ!!」
「(自分で訊いといて…;;;)」


ブチギレたサトルは、もう誰にも止められなかった


「グリードさんの馬鹿っ!阿呆!」
「さ、サトル、あの、これはね…」
「色魔!変態!ぬか漬け!!節操無し!!」
「ヌカヅケ?」
「あの、サトル、それは悪口じゃない;;;」
「いくら強欲だからって、ミツキにまで手ぇ出して……!
 もう知らない!!もう許さない!!バカバカ!!いっぺん地獄行けぇ!!」
「いや、俺死なねぇから。」


サトルの罵声を聞いてるうちに、だんだんグリードの顔も険しくなっていった


「女だったら誰でもいいわけ?!信じらんない!!最低!!」
「サトルッ!いい加減にしろっ!!」
「……っ!もういいよっ!グリードさんなんか…大っ嫌い!!」
「そーかよ、別に構わねぇよ!俺は女には不自由しねーからよ!!」

「ちょっと、サトルもグリードさんも言い過ぎ…」

「ッッ!!グリードさんのぬか漬け!!知らないッ!!」
「だからヌカヅケってなんだよっ!」


サトルはダッとドアまで駆けていき、くるっと振り返ると、
涙目になりながら、思い切り息を吸い込んで


「グリードさんの馬鹿ぁ〜〜〜っ!!」





と、冒頭の台詞まで至ったのである



「とりあえず、ごめんなさい、グリードさん…あたしのせいで…」


しゅんとして謝るミツキに、グリードは「気にするな」と笑顔を見せた


「ま、仕方がないだろ。誰にだって好き嫌いはあらぁ。」
「……あの、サトルのことですけど…」
「…あぁ…どうするかなぁ…」


ん〜・と二人で頭を傾かせている頃…




「ひっく…グリードさんの馬鹿ぁ…」


サトルは、酒場のカウンター席でうつぶせになって泣いていた


「あんな言い方…しなくてもいいじゃないかぁ…」


ぐるぐると、先程までの言い合いが頭の中でリピートされる



……本当は、ミツキに嫉妬していた


自分が一番年下だから、一番子供だから、
年上のミツキに、少なからず羨望の目を向けていた

普段は自分と大差ないくらい子供(むしろ年下っぽい)なのに、
時折見せる女性らしい行動とか、自分にはない女性らしい体つきとか、
ずっと羨ましくて仕方がなかった

だけど、グリードさんは、私を選んでくれたんだ

それが嬉しくて嬉しくて、仕方なかったのに…


「結局、ガキは嫌なのかなぁ…」


思い切り落ち込んでいると、


「サトル?どーした?」
「……あ…」


声をかけてきたのは、ドルチェットだった


「な?!どうした?なんで泣いてるんだ?」
「……ドルチェット…あのさ…」


顔を上げたサトルを見て、慌てふためくドルチェットを見て、
サトルは、とにかく愚痴を聞いてもらおうと思った


そして、小一時間後―――――


「てことがあってね……あの、ドルチェット?」


話を聞いていたドルチェットは、思い切り固まっていた


「あ、あの、ドルチェ………あ。」


ふと、大事なことを忘れていたことに気づく



『ドルチェットは、ミツキの彼氏である』



「あ、あわわ、ど、ドルチェット…あの…」
「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


がたんと音を立てて立ち上がると、


「あの、馬鹿女………ッ!!」


怒りに満ちた顔で調理場の方へと駆けていってしまった


「ど、どうしよう;;;ま、待って、ドルチェット!!」


サトルも、追いつかないことは承知の上で、後を追っていった





「さぁて、結局どうすんです?」
「俺から謝るのは嫌だね」


一方、何も知らない二人は、調理場の椅子に座りながら
この先のことについて話し合っていた


「つまらない意地張るのは良くないですよ」
「あそこまで言われておいて今更なぁ…大体ヌカヅケって何なんだ?」
「あー、ぬか漬けはこっちに置いといて
 私からちゃんと説明しますから、一緒に謝りましょ?」
「俺達は何も悪いことしてねーだろ」
「いや、それはそうですけど、せめて誤解は解かなくちゃ………ん?」


ふと、ものすごい足音に、二人で入り口を見やる

  すると


「ミツキぃッ!!!」


バァンッ!とドアを半壊させて、ドルチェットがやってきた


「あ、ドルチぃ☆」
「おいおい、ドア直せよ?」


何も知らないミツキは、迎えに来たのかと思って満面の笑顔になり
同じく何も知らないグリードは、きっと歪んだだろうドアの心配を(一応)した


「こンの、馬鹿っ!!!」
「はぇ?」


いきなり怒声を浴びせられ、ミツキはきょとんとしてしまった


「お前な、今日という今日は許さねぇぞっ!!」
「あの、何の話?」
「いくら俺でもなぁ、限度っつーもんがあるんだぞ!!わかってんのか!?」
「?????」


ミツキからすれば、ドルチェットが怒るような出来事に思い当たる節が無い訳で。

そこに、遅れてサトルが入って来た


「ま、待って、ドルチェット……は、早すぎ……;;;」
「あれ?サトル?どうして………あ!…もしかして……」


こう言うときの頭の回転が速いミツキは、ピンと来た


「……かーっ…ややこしくしてくれちゃって;;;」
「おい、ミツキ、どういうことだ?」
「ミツキ!ちゃんと説明しろよ!!」
「落ち着いてよ、ドルチェット!」



がやがやがやがやがやがやがやがやがや



「…………うるせぇぇぇぇぇっっ!!説明するから少し黙れぇぇぇぇぇっ!!!」



ガッコォォォォン!!


ついにブチギレたミツキは、穴でも開きかねないくらいに思い切り壁をぶん殴った
あまりの轟音と、どす黒いオーラを放つミツキに、あたりはしーんと静まり返った
ミツキは、てきぱきと二人を丸椅子に座らせると、
事のあらましをしっかりと事細かに説明した


「つまり、これは不慮の事故。アクシデント。おわかりいただけた?」


フンッとため息をついて、二人に視線を送った
それを聞いて、サトルもドルチェットも納得したようだった


「まったく。抱きついた私も悪いけど、グリードさんの説明を聞かないサトルも悪い」
「…ごもっともです」
「さらに言うなら、それをドルチぃに話してややこしくした分、罪は重い。」
「…はい…」
「……もう、本当に好きなら、相手の言い分も聞いてあげて、ね?」
「………。」


黙りこくってしまったサトル


……やっぱり、ガキだ



「…なぁ、ミツキ・ドルチェット
 お前ら、これから出かけるんじゃなかったのか?」
「「あっ!」」


グリードに言われて、二人は顔を見合わせた


「とりあえず、誤解は解けたんだ
 日が暮れねぇうちに、行ってこい」
「…!(ピーン☆)そうですね!行こ行こ、ドルチぃ!」
「え?あ、お、おう」


ドルチェットの背中を押しながら、二人は部屋を退出した
去り際、ミツキはグリードにクチパクで『がんばれ!』と言い残し、手を振った


「…さて、サトル」
「はい」
「とりあえず、謝れ」
「…ごめんなさい」
「お前、俺に向かって色々言ってたよなぁ?なんて言った?全部言ってみろ」
「……馬鹿、阿呆、色魔、変態、節操無し、地獄へ行け、最低……大嫌い」
「ぬか漬け、忘れてるぞ」
「あ、はい、ぬか漬けも、です」


しーんと静まり返った調理場
ほんの数秒の間だったのに、サトルには何分にも何時間にも感じられた

やがて、はあ・とため息を付いてグリードが口を開いた


「で?色々言ってくれた訳だが、それはつまり俺が嫌いってことでいいんだな?」
「……あ、違ッ!」
「ん?何だって?」


はめられた…

つい、条件反射というか本能的に答えてしまい、少し悔しかった


「どうなんだ?嫌いなのか?」
「………。」


グリードは意地悪な笑顔で答えを迫る
こうなると、もうサトルの負けは決定である


「サトル?」
「…ち、違い、ます」
「ふぅん、そうか。それじゃあどうなんだ?」


どうやら、敢えてサトルの口から聞きたいらしい
サトルは真っ赤になりながら、ぼそぼそと小さい声で答えた


「……です…」
「あぁ?聞こえねーなぁ」
「……ですっ」
「悪ぃな、200年も生きてると、耳が遠いんだわ」
「ッ!(絶対嘘だ!)」
「早くしないと、俺行くぞ」
「〜〜好きですっ!!!////」


やけくそで大声で言うと、
グリードは満面の笑みになって立ち上がると、
サトルの手を引き、自分の腕の中にしっかりと収めた
その際、サトルの座っていた椅子が、かたんと音を立てて倒れた


「わっ…ぐっ、グリードさ…」
「大変良くできましたってとこか」
「…信じらんない///」
「折角言ってもらったんだ、俺も言わなきゃ割に合わねぇよな?」
「は?あの、グリードさん?」


ニヤッと笑ったグリードは、
ずいっと耳元に口を近づけると、
いつもより低めのトーンで、甘く、はっきりと囁いた


「愛してる」


さらに真っ赤になったサトルを見て、グリードは満足そうに笑った
そんな、どこかあどけない笑顔を見て、サトルも微笑んだ


「あ。」


ふと、サトルは、全ての元凶である生き物、ゴキブリを発見した
サトルはグリードから離れると、それを水場まで追いやり
ゴキブリめがけてざぁーーーーーっと水を流した
哀れ、ゴキブリは溺れながら下水へと落とされたのであった


「まったく、こいつのせいで誤解しちゃったじゃないか」
「……………。」


ある意味、ミツキの方が、まだ可愛気があるんじゃないか・と
ちょっぴり思ってしまったグリードさんでした