錬金術とは、理解・分解・再構築から成る



*---Central---*



買い物に行った翌日

ミツキは、早速買ったばかりの服を着て酒場に顔を出した

しかし、今日はやけに酒場連中の顔が暗く、
疑問符を頭に浮かべながら、近くにいたマーテルに話しかけた


「マーテルさん、どうしたの?」

「あら、ミツキ……それがね…」


マーテルは、フゥと溜息をついた


「グリードさんがね、中央に行きたいんですって」

「中央に?」

「調べたいことがあるらしいんだけど…」


其処まで聞いて、ミツキはなんとなく理解した

中央と言えば、彼らが在籍していたアメストリス軍の中枢
確かに、彼らにとって中央は訪れたくない場所だろう

かと言って、グリードを単身で送り出すのも気が引ける・と言ったところか


「それじゃあ…あたし行ってみたいな〜」

「え?!」

「私、ダブリスしか知らないし、行ってみたい」


(運が良ければ…彼奴に出くわすかもしれないしね…)


「で、でも…」

「どうした?」

「あ…グリードさん…」

「ねぇ、グリ、あたし、中央行きたい!」

「あ?」


この一言に、酒場がざわついた


「な、何言ってんだ、ミツキ?!」


駆け寄ってきたドルチェットも、驚きを隠せないでいる


「みんなは、中央に行くのがつらいだろうし、
 かと言って、グリ一人だといろいろと不便でしょ?
 それに、私自身、中央に行ってみたいの」

「だ、だけどよ…」

「危ない目に遭うかもしれないのよ?そうなったら…あたしたち…」

「大丈夫だよ〜!グリがやりたいことやってくればいいし!
 私は衣食住の世話だけするつもり!
 案外、堂々とホテルに宿泊したりするほうが怪しまれないし、
 危ない橋を渡ることもないと思うんだ!」

「……よし、じゃあ一緒に行くか」

「グリードさん?!」

「此処までちゃんと考えてあんなら、いいじゃねぇの」

「良かった!じゃあ万事解決!いつ出発?」

「これからだ」

「早っ!」


カラカラと笑うミツキを、周りは心配そうに見ていた
それに気が付いたミツキは、全員に聞こえるように大きな声で


「だーいじょうぶっ!絶対絶対帰ってくるから!お土産買ってくるよ!」


と、また笑った




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「ミツキ」


部屋に戻り、荷造りをしていたミツキは、
聞き慣れた声に顔を上げる


「あ、ドルチぃ!」

「…本当に、行くのか?」

「心配?」

「……別にっ…!」

「じゃ、どうしたのかな〜?」

「……ッ……クソッ…」


にーっと笑ったミツキに観念したのか、
頭をかくと、ミツキの隣に座った


「…悪いか?」

「ん?」

「し、心配しちゃ、悪いかよ…ッ」

「ううん、すごく嬉しい」

「ミツキ…」

「ありがとう、でも、大丈夫だよ!
 絶対に此処に帰ってくるから!約束するよ!」

「…約束…な」

「……!……うん、約束…」


真剣な瞳のドルチェットに、
ミツキは思わず頬を赤く染めた


「…な、ミツキ…」

「な、に…?」

「俺……俺は…」


ドルチェットの右手がスッと伸ばされ、ミツキの髪に触れる


「ドル…チぃ…?」

「俺は…」


<コンコン!>


場の空気を壊すようなノックの音に、お互いにバッと離れた


「おい、ミツキ」

「あ、グリ!」

「準備できたか?そろそろ行くぞ」

「はーい!
 …それじゃあ、行って来るね!」

「お、おう…気を付けて行って来いよ…」

「は〜い!それじゃ、いってきます!」


ミツキは、旅行鞄を持ち、部屋を後にした
残ったドルチェットは、足音が遠ざかったのを確認すると、がっくりとうなだれた


(今ほどグリードさんを恨めしく思ったことはない…ッ!涙)


ふと、ドルチェットの脳内を嫌な想像が駆けめぐった


<ドルチェット脳内>
グリードさんと二人で中央へ→衣食住はミツキが世話
→まさか部屋一緒?→グリードさん=強欲→自主規制(またか)


この想像に、思わず全身からザーッと血の気が引いた


「…わぁぁぁ!!!待ったミツキ!!!やっぱ行くなぁぁぁぁ!!!!」


ドルチェットが大慌てで部屋を出たとき、
既に二人はダブリスの駅へと向かっていたのであった




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「列車〜列車〜はっじめっての〜列車〜♪」


ドルチェットの叫びなど露知らず、
ミツキは初めてのこの世界の列車にるんるん気分でいた


「こういうね、公共機関使う方が、案外ばれないもんなんだよ!」

「ほーぉ、随分詳しいな…さては、そういうのに慣れてるな?」

「ぬふふふ☆そんなことないですよ〜ぅ☆」


くるくると舞いながら照れる(?!)ミツキに、
グリードは、ククッと笑い声を漏らす


「おめぇは本当に面白い奴だなぁ」

「そんなことないよ〜ん☆」

「ほれ、そろそろ座っとけ」

「はぁ〜い!」


ひとしきり舞った後、ミツキは、グリードの向かいに座った


「えっへへ〜!楽しみ楽しみ!」

「おめぇはいつでも楽しそうだがな」

「そうかなぁ〜?……あ」


どこからか小さな泣き声が聞こえ、
ミツキはひょこっと通路に顔を出した

そこには、泣いている男の子と、放り出された車のオモチャがあった
ミツキは席を立ち上がると、「どうしたの?」と男の子に声をかけた


「こ、転んじゃって…グスッ…壊れちゃった…」

「ありゃー…見てもいい?」

「…ヒック…ん…」


ミツキは、慎重にオモチャを持ち上げる
…どうやら、車軸が折れてしまっているらしい


(これじゃあ、直らない……あ…)


そういえば…

この世界に来るときに、自分は『扉』を潜り、『真理』を見たことになる


(まさか…)


思いながらも、そっと両手の平をあわせる


(車軸はおそらく、鉄がメインに出来てるはずだから…)


理解…分解…再構築……この一連の流れは知っている
もしかしたら、出来るかもしれない…

あわせた両手の平を、オモチャに宛う

すると…


"バチッ!パチッ!!"


錬成反応による光…

そして、車軸が元に戻ったオモチャが、彼女の前にあった


「出来た…っぽい?」


自分でも、まさかとは思ったが…


「はい、ぼく」

「…ヒック…?」

「直ったみたいだよ」

「え?」


にっこりと笑いながら、オモチャを男の子に差し出す


「…あり、がとう…お姉ちゃん」

「いやいや」


男の子は、ぽかんとしていたものの、オモチャを手に取ると、
自分を待つ家族のいる席へと戻っていった


「ふぅ…いやしかし、吃驚吃驚…」


まさか本当に錬金術が使えるとは思いもしなかった
しかも、陣無しの錬金術を、だ


「ミツキ?」


自分を呼ぶ声に、ハッと我に返る
「遅くなりました」と、謝りながら席に着いた


「あんまりはしゃいで迷子になるなよ?」

「なりません〜っだ!」




どうやら、自分はこの世界で、錬金術が使えるらしい


これから中央に滞在する間

そして、ダブリスに戻ってから


この錬金術が役に立つのか、それは今はわからない