つながりを作るのは簡単
難しいのは、それを絆に変えること



*--- Bonds ---*




「…と、これで全員だな、覚えたか?」


酒場に集められた幾人かの男達、
それらを紹介し終えた酒場の主・グリードは、ミツキの方を向いた


「ん・と、なんとかかんとか」


正直、覚えられたのはごく少数だったが、
そのうち覚えるか・と楽観的に考え、ミツキはそう答えた



ミツキは、目の前の光景をじっくりと観察して、
やはり同じ結論にたどり着いた


"ここは、自分が読み憧れた「鋼の錬金術師」の世界だ"ということ


あまりにも非現実的なことに、結論付けた当初は、それを否定もしていた





しかし、

あの世界での列車事故

意識を失いかけた瞬間に見えた"門"

そして、目の前の現実




これらをつなぎ合わせると、この結論しか出てこないのだ





「…って、オイ、聞こえてっかァ?」

「ふぉいっ?!」


突然のグリードのどアップに、
ミツキは思わず奇妙な声をあげてしまった


「……ぷっ…ククッ…面白ぇ……!」


その姿を見て、グリードは思わず吹き出してしまった
他の連中も、つられてくすくすと笑っている


「ひ、ひどいよ!なんでそんなに笑うの!」


プンプンと怒りを露わにしているミツキを見て、
さらに笑い声が増した


「クックッ…まぁいい、とにかくこんなもんだ
 わかんねぇことがあったら、誰にでもいいから聞きゃぁいい」

「あ、じゃあ早速はぁい」

「んぁ?」

「あだ名で呼びたい人には、あだ名で呼んでいいですか?」

「あだ名ぁ?」


思いもしなかった質問に、グリードを初め、みんなが目を丸くした


「構わねぇよ、好きにしな」

「はぁい!ありがとうございます、グリ!」


その一言に、一瞬にして酒場が静まり返った

事も有ろうに、あのグリードさんを"グリ"と呼んだのだから当然の反応だろう
呼ばれた張本人も、初めてのことに驚きを隠せなかったが、
急に吹き出し、大声を上げて笑い始めた


「がっはっはぁっ!!本当に面白ぇ奴だなっ!!益々気に入った!!」

「じゃ、グリでいいですか?」

「おぅ、勿論だ!」

「わーい☆」


ミツキの怖い者知らずな行動に、全員がぽかんと大口を開けていた


「あとね…ドルチェットー!」

「あ?!お、俺か?!」


名指しされて、ドルチェットは無意識に顔を赤くした


「ドルチェットの事ね、ドルチぃって呼んでいい?」

「どっどるちぃ…?!」

「駄目?」

「………勝手にしろッ!」

「うん!よろしく、ドルチぃ!」


ドルチェットの顔が、先程よりも紅潮した


「後はー…ま、後でいいや!」

「おいっ!!」


あっけらかんと言ってのけたミツキに、その場の全員からツッコミが入る


「さーて…ミツキの部屋だが…最端の部屋が空いてんな、其処にするか」

「はぁい、良いでぇす」

「じゃ、ドルチぃ、案内してやれ」

「グリードさんッ!!」

「がっはっは!冗談冗談♪」


グリードにからかわれたからか、ドルチェットは踵を返すと、
さっさと歩き始めてしまった


「あ、待ってー」


ひょこひょこと、ミツキもそれなりに必死で後を追いかけた





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いつもと変わらぬ生活、いつもと変わらぬ光景


いつもと同じ制服で、いつもと同じ友達と帰路につく


「ね〜ぇ〜、月夜〜!一緒に帰ろぉvvv」

「はいはい、わかってるよ光稀」


いつもと変わらぬ会話で、いつもと同じ電車に乗り込む


「今日は〜どっちの話しよっかぁ?」

「別にどっちでもいいよ」

「ん〜ん〜、今日は鋼にしよう!」

「ん、わかった」


いつもと変わらぬ話題で、いつもと同じ笑顔を見せる





しかし、その日は、いつもとは違う日になってしまった






突然の揺れ





思わず吊革を握りしめる月夜

しかし、捕まっていなかった光稀は、バランスを崩してしまった



「光稀ぃッ!!」

「あ、月夜…ッ!」









気がつけば、真っ白な世界に、

ただ一つそびえ立つ大きな門の前にいた


遠くから、微かにニュースキャスターの声が聞こえる



『今日午後5時頃、○×線の電車が脱線・横転し、

 少なくとも6人が死亡、多数の重軽傷者が出ており…』



へぇ…脱線したんだぁ…


じゃ、ここは何処だろ…




大きな大きな門

見ているだけで、恐怖がじわじわと体を支配していく



ギィ…



と、重たい音を立てて門が開く




そこには





          見             








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「…おい、ミツキ?」

「…!」


心配そうなドルチェットの声に、ミツキは意識を戻す


「大丈夫か?顔色良くないぞ?」

「あ…、きっと逃げ疲れたんだ!体力すーぐに無くなっちゃうから」


たはは・と、苦笑混じりだったが、 努めて明るく振る舞った


「……本当に大丈夫か?」

「おぅ、大丈夫だ☆」

「とりあえず、今日はもう寝とけよ
 仕事とかは、明日グリードさんにでも聞きゃぁいい」

「はぁい!」

「……お前って、本当変わってるのな」

「そーぉ?」

「…まぁ、あれだ…つらかったら言っていいんだぞ?」

「…え…?」

「かっ、勘違いするなよなっ!!別に心配してる訳じゃ…ッ」

「…ありがとう、ドルチぃ、すっごぉく嬉しいよ」

「……行くぞッ!!/////」


照れて真っ赤になって、
さくさくと歩き出すドルチェットの背中を見ながら、


ミツキは、笑っていた


本当に幸せそうに…